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第12話

息子は結局、男と出かけた。 それは思いのほか楽しかった。 男は別荘の近くにある美しい湖へ息子を連れて行った。 息子は昼に別荘から歩いて外へ行くことを最初は拒否した。 「お父さんから陽に当たるなと言われている」 という理由で。 そう。 命じられていた。 父親は薄暗い部屋の中で、青白く光るほど白い息子の肌を気に入っていた それを楽しむために陽に当たるな、と命じていた。 抱かれるようになってから息子は、陽に当たらないようにしてきた。 それは学校の体育の授業でさえだ。 運動会や体育祭、遠足、それらに参加したことがない。 父親の権力を使って拒否してきたのだ。 もちろん、着替え等で身体を晒すことが出来ないという理由もあった。 父親は白い身体を噛んで吸って楽しんだから。 父親が支配の印を沢山つけた息子の肌を見た事がある男には納得がいっただろう。 あの白さを貪ることが父親の楽しみであると。 だが。 男は諦めなかった。 日焼け止めを塗れば良い、と言った。 帽子も手ぶくろも見つけてきた。 別荘の母の部屋から男は勝手にそれらを見つけ出したのだ。 そして、息子の顔や首に日焼け止めを塗り、長袖の服と手袋を渡した。 そう、問答無用で塗られたのだ。 顔や喉を。 まだ生々しい首に残る父親の歯型や吸い跡を、男は日焼け止めを塗りながら、なぞった気がした。 だけどその目は柔らかい笑みを浮かべていた。 父親がこの男に自分といるように命じたということが、息子がこの男を拒否出来ない理由だった。 だけど。 物心ついてから初めて。 父親以外が自分に触れにきて、笑いかけてくる。 何故か。 胸の奥が熱かった。 二人で湖まで歩き、息子が乗りたいと言ってもいないボートに乗せられた。 空を映す湖は美しくて。 水の上なのに空のようで。 空も綺麗で水のように澄んでて。 山の陽はどこまでも透明で 陽の下を楽しんだ記憶がない息子には、その光景も体験も初めてで。 眩しさに目を細める。 その様子を見て男が笑うから。 最初はバカにされたと思って怒っていたのに。 水の上で二人きりだから。 何故か。 父親の存在を初めて感じなくて。 自分では気付いていない自由さに。 息子も笑っていた。 その笑顔に、ボートを漕ぎながら男がまた笑う。 自分の声に他の人間の笑い声が重なるのを、息子は不思議な気持ちで聞いていた。 楽しかった。 楽しかった。 父親といる時とはまるで違う楽しさだった。 その時、風が、吹いた。 飛ばされそうになった帽子を捕まえようとして、バランスを崩し湖に落ちかけた息子を男が抱きとめ助けてくれた。 息子は父親ではない身体に抱かれ、父親ではない匂いを嗅いだ。 ボートの上に男は息子を押し倒したようなカタチになっていた。 「危ないですよ」 優しく囁かれる声が、耳に吹き込まれて。 父親の身体ではないのに。 分かっているのに。 息子の身体は反応していた。 抱きしめられ、その耳に吐息がかかるだけで、スイッチが入るようにされていたから。 「嫌・・・」 息子は泣いた。 抱きしめられた身体に自分の性器を擦り付ける動きをする腰を止められないまま。 父親相手だったらそんなことを思いもしないで、身体を擦り付け、して欲しいと強請るのに。 身体的な接触を、息子は父親によって全てセックスに結び付けられていた。 息子の身体に触れるのは父親だけで、抱きしめられると欲しがるように教え込まれていた。 これは父親でないと分かっていたのに。 でも身体を包まれてしまうと反応してしまう。 そんなことをするのは父親だけで、それは全て性的な行為しかなかったから。 抱きとめた息子が腕の中で、ガクガクと震え始めた意味を直ぐに男は察した。 ゆっくり腕を離してくれた。 でも、息子は自分の身体を抱きしめ震わせている。 スイッチがはいってしまった。 すすり泣く。 欲しがってしまうと、止まらなくなってしまう。 脳の回路をそう作りかえられているのだ。 「後ろを向いておきます。ここなら誰も見てないです。ご自分で何とかしてください」 男は言って、背中を向けてくれた。 息子は惨めになって嗚咽する。 父親の前でなら、ひたすら求めるだけなのに。 父親に懇願し、父親のモノをしゃぶらせてくれと泣くのに。 「・・・・・ボスは薬を使わないから。でも、薬を使ってセックスすれば、誰でも貴方みたいになる。俺は仕事だから知ってる。珍しいことじゃない」 男は言った。 背を向けて息子から目をそらしたまま。 「あなたが悪いんじゃない」 その声は優しかった。 息子はそれでも、惨めな思いで自分のズボンを脱いで、後ろを指で慰め始めた。 ガマン出来なかったから。 これが父親に知れたら、と思うことさえ出来なかった。 お父さん お父さん 父親の名前を叫びながら、しゃぶって濡らした指で後ろの穴を弄り、何度か達した。 触らなくても前から精液が迸った。 男が自分に背を向けて、息子がそうしている間、何をしていたのかは気にしてられなかった。 何度か出した後、そのままボートの上で丸くなり涙を流す息子。 その身体に極力触れないようにようにして、湖の水を浸したタオルで後始末をする男。 息子は涙をこぼし、その目は男を見ないようにしていた。 でも。 後始末されることを拒否しなかった。 「あなたは。中毒なんですよ。父親とのセックスの」 男が教えてくれたことが。 間違いなく事実だと分かっていた。

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