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第13話
湖の水の上で男は教えてくれた。
「ボスは天才だから、薬も要らない。何ならセックスさえ要らない。でもね、薬とセックスを使えば、または暴力を使えば、あなたみたいに支配されるのは普通のことなんですよ」
父親は面白がってに自分の周囲の人間を支配しているが、仕事として部下達に【支配】をさせてもいる。
父親の組織は【支配】を権力としてきたのだ。
様々な人間への支配が組織の力だった。
その中で薬を与え、セックスをすることは一番簡単な支配だった。
「どんなに堅い処女でも、薬漬けにしてセックス中毒にふれば何でも言う事をきく人形になります。暴力で頭を壊すやり方もあるし、幻覚剤を使って恐怖を使うやり方もある。もっと色んなやり方もある。でも、セックスは一番いい。薬を抜いてもそれ無しでいれなくなる。そのセックスを与えてくれる人間を愛してると思いこむ」
男は淡々と言った。
それは父親のもうひとつの姿だった。
部下達を使い、人を支配させる。
父親は支配の仕方を教えることもまた、天才だった。
父親の組織は【支配】によって成り立っていた。
父親に支配され、教育された部下達が、また違う人間達を支配する、そんなピラミッドで成り立つ。
「ボスには薬は必要ない。ボスはそんなのなくても支配できる。あなたにしたように。俺たち、ボスに従うモノがそうであるように。でもあなたに使っているのはセックスだ。ボスの女達、ボスがたまに抱く綺麗な男たちもみんなそう。あなたの母親も。ボスのセックスに脳までやられて、ボスに命じられたなら、大勢の前でボスのモノをしゃぶるようにさえなる。ボスがあなたや母親にさせないのは、ボスの妻子という立場があるからだけです」
男の言葉は単なる事実だった
息子だって知ってた。
父親のおもちゃ。
お気に入りのおもちゃ。
幼い身体を貫かれたあの日からずっと。
息子ではないから、息子などと思ってないから、おもちゃに出来たのだ。
それを見ないようにしてきたのは息子だった。
「あなたは跡継ぎなんかじゃない。本当の跡継ぎなら、こんな風にセックスで脳を壊したりしない。ボスは本当は跡継ぎなんか要らないんです。ボスは自分のことしか興味がない。自分のその後なんてどうでもいい。跡継ぎだってこともあなたを支配するための道具です」
この言葉は認めたくなかった。
跡継ぎとして。
跡継ぎとして。
頑張ってきたのに。
「あなたはボスの一番お気に入りのおもちゃだって、組織の人間達は知ってます。だから、ボスがいなくなったらあなたを奪い合うことはあっても、あなたに従うことなんてないんですよ。みんなあなたにぶち込みたくて仕方ない。そうしないのは、ボスがいるからです」
男の言葉は残酷だった。
父親に犯される息子など。
誰も跡継ぎだと思っていなかったのだ。
父親でさえ。
「なんで・・・教えてくれたの」
息子は白い顔をさらに白くして、泣きながらきく。
「泣いて信じないってことはしないんですね。あなたは・・・ボスのおもちゃになるには賢すぎる」
気の毒そうに男は言った。
無遠慮にタバコを咥えていた。
息子はもう気付いていた。
この男は。
父親の部下ではない。
ありえない。
「・・・協力して欲しいんですよ」
男は言った。
車ではなく、歩いて湖の上に連れ出したのも。
息子に母親の部屋から持ってきた服をきせたのも。
日焼け止めを塗ったのも。
全部。
盗聴器等のチェックをするためだった。
男は息子と二人きりで話す機会を待っていたのだ。
「お前は誰?」
息子は聞いた。
答えるかわりに男は質問を返してきた。
「あなたは父親のおもちゃとしてこれから生きていきたいですか?」
男の問いに息子は答えられない。
でも。
【跡継ぎ】が嘘だったこと。
それに息子は動揺していた。
それは息子の存在理由だったから。
「俺はあなたを自由にすることができる」
男の言葉は。
息子の考えたこともない未来だった。
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