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第3話

 朋樹はぴしゃりと遮った。理人と間宮は同い年で、確か……よちよち歩きのころからの親友という間柄、らしい。  恋人にとって掛け替えのない相手には、にこやかに接するべき。理屈の上ではそうだが、人間には相性がある。事、間宮に対しては、警戒心の強い猫さながらシャーシャーと威嚇する猫のような態度を取ってしまうあたり、もはや習性の域に達している。  間宮が、ごんごんと踏み段を蹴りつけた。 「まったく、毎度のことながら愛想の欠けらもねえな。二年前の春先に、あいつが『都会暮らしに見切りをつけて、じいさんが遺してくれた山荘に移る』『つきあいはじめて三年目の、これから一緒に暮らす恋人だ』って、おまえを紹介してきたときの俺の第一印象が最悪だったのが原因だったにしても──だ」  作務衣の衿をかき合わせて言葉を継ぐ。 「そりゃあ、ちんちくりんの鳥の巣頭とけなされりゃ根に持つだろうさ。けどな、いいかげん時効だろうが。少しは打ち解けてくれてもバチは当たらんぞ」 「ちんりくりんの、鳥の巣頭……?」  朋樹は鸚鵡返(おうむがえ)しに繰り返しながら頭をまさぐった。綿菓子のようにふわふわの天然パーマが、なおさらもつれる。  初対面の席で毒舌をふるわれた一件は忘却の彼方だが、小柄なことも含めてコンプレックスを刺激されれば、天敵と認定するに十分だ。なので、じろりと間宮を()めあげる。 「わかった、降参だ。あいつに、よろしくな」  箱型のブランコ風のベンチが、ポーチの一角を占める。花束をその上に載せると、セダンのもとへ駆けていく。エンジン音が遠のき、やがてあたりは静寂に包まれた。  玄関の扉を閉めると雨音さえもかき消され、衣ずれが廊下に響く。納戸から花瓶を持ってきて、押しつけられた形の百合を生けて思う。  間宮に借りを作るのは御免だ。何かをもらった以上、茶の一杯もふるまうのが大人の対応だ。だが「おかえり」「ただいま」と熱烈なくちづけを交わす瞬間まで比喩的には秒読み段階に差しかかっているのだから、妨害分子は追い払うに限るのだ。  (こいねがわ)くは庭のぐるりに結界を張って、何人(なんびと)たりとも侵入できないようにしてしまいたい。  台所に戻り、アサリのむき身を酢みそで和えるにつれて瞳が(かげ)っていく。イギリスに滞在中、時差の関係とスケッチに没頭していたのが相まって、理人は、連絡しそびれる状態がつづいていたに違いない。

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