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第8話

 宵闇が忍び寄り、部屋の四隅に(よど)む。半裸の肢体がしなやかに炎に照り映え、露を結んだ穂先が妖しく輝く。  とはいえ、ソファはさすがに狭い。朋樹は床に膝をついて座面に伏せた。すなわち秘処をさらけ出す形で、ただし釘を刺す。 「いじるのは代わりばんこ、だからね」 「そいつは無理な相談だ。今日のところは俺が主導権を握る。もっと腰をあげろ」  渋々と、そのじつ嬉々として従った。大胆、且つ繊細に(なか)をかき混ぜられると、一気に快感のインジケータが振り切れてしまう。とりわけ、 「あ……そこ、ぐりぐりしないで……っ!」  媚肉のあわいに潜む突起を狙い打ちにされると弱い。とろとろと蜜が糸を引き、和毛(にこげ)はおろかがべたつく。 「ごねてみせるのは『たくさんポッチを可愛がってほしい』の婉曲的な表現だな。心配するな、ここでたっぷり()くしてやる」  などと、うそぶく理人にしても呼吸が荒い。花園を踏み荒らしたげにイチモツがいきり立ち、赤黒くエラが張る。もっとと、せがむように指をぱくつくさまに喉仏がごくりと上下し、それでも美味しい料理を作るには下ごしらえが肝心と言いたげだ。内壁をどろどろに蕩かしていく。 「ん、んん……ぐちゅぐちゅって、ぐちゅぐちゅって言ってる……ぅ!」  こする、揉む、弾く、というぐあいにバリエーション豊富なやり方で(さね)を慈しむ。時折、わざとインターバルをおいて寸止めの妙味を演出するあたり、啼かせ上手の本領発揮といったところだ。 「あっ、あっ、理人、理人ぉ……!」  愛している、と全身全霊で訴えて、ところが場違いな疑問がひょっこり浮かぶ。  強固な絆で結ばれたおれたちの、なれそめはどんな感じだっけ? ……度忘れしたという次元を通り越して、理人と出逢った前後のもよう自体が、濃霧に包まれたような状態にある。  桜色に染まった頬が一転して蒼ざめた。ふたりの愛の歴史の、その冒頭を飾るひとコマを思い出せないなんて、書籍でいうと落丁に類するミスが起きた背景には、超自然的な力が働いていたりするのだろうか……。 「おい、急におとなしくなってどうした。痛くしたか」  優しく乳首をつままれたのをきっかけに、回線が元通りつながった。首をねじ曲げて唇を重ねていくと、画像の解析度がアップしたように鮮明さを増した。  そうだ、ミステリ系の新人賞を射止めた、おれのデビュー作が刊行されるにあたって、理人が描いた絵が装画に用いられたのだ。  それが縁で食事に誘われて、ビッグバンに匹敵する衝撃をともなって恋に落ち、交際がスタートして。時には喧嘩しながら愛を育んで、現在に至る──。

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