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第9話

 記憶に生じた空白が埋まって、ホッとした反動で(なか)の感覚がいちだんと鋭い。蠢く指の、その微細な角度の変化まではっきり捉えるほどのレベルで。  やっつけ仕事みたいな安直なストーリーをひねり出して自分を(あざむ)いて──頭の片隅で、せせら笑う声がこだましたような気がするはしから悦楽の波にさらわれる。 「も……欲しい。指じゃ、物足りない……」  腰をくねらせて誘う。中指につづいて人差し指が門をくぐり、ひしめいて、あるいはVの字を書いて花筒を押し広げても、満足するには程遠い。理人、そのもので支配してくれないかぎり、ひもじいままだ。 「……うっ、ぁ、ああっ!」  核を揉みしだかれて、髪の毛がはたはたと(くう)を切り裂く。朋樹は座面に突っ伏して、よがり声を殺した。独立した生き物めいてペニスが猥(みだ)りがわしく跳ね踊る。鮮紅色に華やいだ襞がちらつくさまは、なまめかしくも尊い。 「ん、んん……っ!」 「いい子だ、もっと感じてみせろ」  蜜が泡立ち、ペニス全体に塗り広げられる。爆ぜる気配を見せるたび指が入口まで退き、焦れったさに、内奥にさざ波が立つ。  やがて、窓の外は鈍色(にびいろ)に沈んだ。鳩時計が時を告げたのを機に、理人が覆いかぶさってきた。そして教え諭すように囁く。 「確認するぞ。おまえを抱くのは、おまえ曰く〝スケッチ旅行に出かけて以来〟──間違いないな」  腰を抱え込まれて、先端があてがわれた。オジギソウは触れると葉をたたむ。かたや普段は楚々と(つぼ)まっている花芯は、今や(あで)やかに咲き匂って愛する男性(ひと)を差し招く。  思うさま理人と契る。そんな素朴で、切実な願いがやっと叶う。ほろりと涙がこぼれ、それでいて朋樹は肩越しに振り向くと、むしろ挑発的な笑みを浮かべた。 「確認なんかしてくれなくても久しぶりだとキツめなのは織り込みずみ。受け入れるコツくらい、ちゃんと憶えて……」  ……いるはずだ。 「とにかく乱暴に扱っても平気だし?」 「馬鹿を言うな。久しぶりだから、なおさら負担をかけたくない、慎重になる。大切な大切なおまえをつらい目に遭わせるのは俺自身だろうが、ぶん殴ってやりたくなる」    真剣な眼差しに魂を鷲摑みにされるとともに、素直な気持ちがあふれ出す。一旦、腕の輪からすり抜けてラグマットに仰向けに横たわった。そして、おむつを替えてもらうような恰好で、自ら双丘を割り広げる。 「顔を見ながら、したい。来て、貪って」 「まったく。可愛い駄々っ子には勝てないさ」  のしかかってこられて愛おしい重みを受け止めたとたん、言葉では言い表せないほどの幸福感に包まれた。だが餓鬼が心の中に巣食っているようだ。錆びついた自転車に油を()す要領で、(ほと)びるまでたっぷり精をそそいでほしい。

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