「まあ、いいさ。よーいドンでかぶりついて種の飛ばしっこしようぜ」 「おやおや、タオルでぺっちゃんこになったせいでしょうか。間宮さんってば頭髪がいささか淋しくおなりで。もしかするとハゲる兆候が現れたのかもですねえ」 　朋樹は天然パーマでほわほわしているぶん、よけい豊かに見える髪を嫌みったらしくかきあげた。比較する態(てい)でちょんと額をつついてあげると、なぜだか間宮はうろたえた様子で後ずさった。 　はずみでカスミソウが幾片か散った。青々しい芝生とコントラストを成して、ちっぽけな花はいっそう儚い。生を謳歌したのもつかのま土に還る蝉のように物悲しい。 　間宮は棒状にねじったタオルで虚空を叩き、 「そこの眼鏡のあんちゃん、こいつは火の国は熊本からやってきた。とびっきり上等、とびっきり甘い、ほっぺたが落っこちまうぞ」 　唐突にテキ屋を真似て威勢よく口上を並べ、次いで西瓜をこんこんと叩く。ふっと真顔になると、今度はカスミソウの花束で朋樹の頭をぽんぽんと叩いた。 「こっちは、あいつにだ。居間の小卓に写真立てが乗っかってるだろう、あれの隣に飾ってやってくれ」 「取材先でピュリッツアー賞ものの成果をあげた理人に、前祝いって意味で？　男友だちへのプレゼントにしては気障すぎかも」 　と、仏頂面で受け取るはしから、そっと抱えなおす。その、花束を理人になぞらえて愛おしむような風情に胸を打たれるものがあった様子だ。間宮はうつむいて目許をぬぐった。もっとも口を開けば、この調子だが。 「西瓜も切ってこい。アジシオを添えて」 「えっらそうに『ああしろ、こうしろ』って、何様のつもりなんだか」 　ぶうたれて、それでも注文通り西瓜を切り分ける自分が底抜けのお人好しに思える。こき使ってくれたお礼に、間宮に供するやつには胡椒を振りかけてやろうか。いや、胡椒がもったいない。 　理人のデザート用にと、よけたぶんを冷蔵庫にしまうさい、ぎくりとして皿を落としかけた。こういった文章が並ぶメモ用紙が、マグネットでドアに留めてある。 〝あしたのおれへ。キュウリの追肥は今日のうちにすませた、やりすぎ防止に一筆〟。 　筆跡は朋樹のそれだが、メッセージの内容は意味不明だ。あしたの、ということは昨日のおれが今日のおれに宛てて認(したた)めたとおぼしいが、こんなものを書いた憶えはまったくないのだ。