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第23話

「神、隠し……?」  馬鹿馬鹿しい、と頭を打ち振った。一拍おいて噴き出した。これは噂に聞く明晰夢というやつじゃないのか? そうだ、理人とつれだって散歩に出かけたことじたい夢の中の出来事で、実際にはポーチで微睡んでいるのだ。 「ちちんぷいぷい、起きろ、おれ」  一度ぎゅっと目をつぶってから、あけた。池の真ん中にかろうじて浮いている状態がつづいていて、今さらめいて心臓がバクバクしだした。水難救助隊にSOS、する? 池を(さら)って、それでもしも亡骸(なきがら)を発見することになったら……?  凍りつき、ぶくぶくと沈みはじめたせつな、ウエストに何かが巻きついてきた。反射的にもがくと、  「こらこら暴れるな。おまえの、俺だ」  ウエストを支点に半回転する形に持っていかれた。抱っこ紐で結わえつけられたように姿勢が安定した反面、きょとんとする。 「理人、今までどこに……?」 「いや、まあ、ちょっと悪戯っ気をな……」 ごにょごにょと濁し、バツが悪げに無精髭をいじるさまから、事のカラクリがおぼろに見えてきた。 「溺れた……お芝居だったんだね」  つまり、こういうことだ。理人は素もぐりで対岸に泳ぎ渡り、隙をついて(おか)にあがると、ゲリラのごとく茂みを縫うルートをたどって池を半周したのちに、再び水に浸かった。そして朋樹の背後から、こっそり近づいた。  なあんだ。ペテンにかかったと感じるより先に、まずそう思った。ややあって、ふつふつと怒りが湧いてきて、水辺に戻ったところで爆発した。 「からかって、ひどい。本気で心配したのに、あんまりだ。理人を(うしな)ったら、おれも、おれも生きていられない……!」  にぎり拳を地面に叩きつける。つぶれた草の汁を飛び散らせながら繰り返し、そうする。やがて拳がまだらな緑色に染まり「~まみれ」という現象が引き金となって頭の隅を閃光が走った。  何か、途轍もなくおぞましいものが記憶を司る海馬の奥から這い出してくる予感がして、酸っぱいものが喉元にこみあげる。  押し戻せ、厳重に蓋をしろ、思い出すな、思い出すな、思い出したら最後だ、呪文を唱えろ……! 「……忘れた忘れた忘れた忘れた忘れた忘れ」  間宮は、うずくまってガタガタ震える躰を優しく撫でた。震えがおさまるのを見定めてから朋樹の正面に回り、(ぬか)ずいた。 「このとおりだ、反省している」 「謝るくらいなら悪ふざけなんかするな」  キスでなだめられているうちに、怒りの炎はマッチを擦った程度にまで小さくなった。痴話喧嘩の要素をはらんで、甘やかな空気が流れだすにつれて、恐れおののいた反動で情欲の虜と化す。

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