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第33話

 雨があがると晩秋の気配が漂い、落ち葉が舞い狂う。この地の風物詩だ。南をめざして旅立つ鳥の一団が、北から渡ってきた鳥の群れに餌場を明け渡し、そして朋樹はぽっかりと目を覚ました。  何かが絡みついているせいで前髪が()れると思えば、冷えピタが張りついているのだ。なぜ、こんな物がここに? 剝がした冷えピタをまじまじと見つめても答えが書いてあるはずもなく、薄気味悪いような、そのくせ、ほっこりするみたいな不思議な気分だ。  いつの間にかパジャマに着替えていて、辻褄が合わないことだらけだ。カーテンを閉め切っていてもそこここで光の粒子が弾けるということは、恐らくお昼時。  手押し式の除雪機のメンテナンスをはじめ、冬支度で忙しい時期に大寝坊するなんて、暢気なのにも程がある。時間泥棒が、そいつにとってめぼしいものをごっそり盗んでいったせいなのかもしれない。  枕元をまさぐった。眼鏡を探り当てて、かけたとたん、ぎょっとした。我に返って柳眉を逆立てた。  間宮が、そこにいる。扉のそばに椅子を置いて、腰かけたまま軽くいびきをかくなど断じて許しがたい。  しかめっ面を、いっそうしかめて枕を振りあげた。馬蹄型に後退した生え際に狙いを定めて腕をしならせたものの、折悪しく上体がかしいで枕爆弾をおみまいしそこねた。  腹いせに、せいぜい毒づく。〝理人の親友〟という地位を悪用して愛の巣に忍び込んだばかりか、寝穢(いぎたな)いザマをさらしてくれた予備軍なんか、椅子ごと引っくり返るのがお似合いだ。  少し動いただけで息が切れて直接、すっ転ばしに行ってやれないのがもどかしい。だいたい朋樹にとって、間宮の寝顔を見る羽目に陥るのは、ジャングルに雪が降るのに匹敵するくらいの椿事なのだ。  シブい男前の部類に入る顔をぼんやりと眺める。理人と同い年ということは三十六歳。なのに不摂生をしたツケが回りでもしたのか、憔悴の色が濃いせいで実年齢より十は老けて見える。目尻の皺も深くきざまれて、もはや立派なおっさんだ。  ひゅうっ、と風が唸って窓枠ががたついた。間宮がぴくりと身じろぎして薄目をあけた。その目は真っ赤に充血して、つきっきりで朋樹を看病していた証しだが、当の本人は知る由もなかった。  間宮は欠伸ひとつ、首を左に右に倒した。ボキボとすごい音がして、 「わざわざ、しかも勝手に台所から持ってきた椅子の寝心地は最高だったみたいですね」  朋樹はしゃがれ声で皮肉った。通常モードといった冷淡な態度に、逆にホッとしたとみえて、無精髭が伸び放題の顔がくしゃりとゆがんだ。  風邪をこじらせて肺炎を併発するような大事(だいじ)に至らなくてよかった──と、洗いざらいぶちまけるより、よほど雄弁に胸の裡を物語っていた。

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