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第34話

 ともあれ、かいつまんで且つ、淡々と事のいきさつについて説明があった。 「おまえは熱を出してぶっ倒れて、三日三晩おネンネだった。あと、医者が言うには貧血気味だから注意しろとさ。気分は、どうだ」 「ふつう……っていうか、が消えてくれしだい元気もりもりだと思いますけど?」  出ていけよがしに扉へ視線を流しても、 「腹がへっては(いくさ)はできぬ、ってな。待ってろ、何か見繕ってくる」  飄々(ひょうひょう)といなされ、すっかり間宮のペースだ。  朋樹は枕をぽかすか殴った。三昼夜ものあいだ()せっていた、がどうのこうのは嘘っぱちだ、そんな憶えはまったくない。  まことしやかなデタラメを並べて黒を白と言いくるめようなんて、どんな魂胆があるのか。恩を売っておいて、いずれ何らかの形で搾取するつもり──いくら何でもうがちすぎだ。  寝汗をかいたのが冷えて、背中がすうすうする。ぎくりとして、かき寄せるはしから上掛けがすべり落ちた。すべらかで綺麗だ、と理人が幾度となく頬ずりしてくれた手がガサガサに荒れて見る影もない。 「なんだか急激に、おっさんぽい……」    光の悪戯だ、と強いて自分を納得させた。それより()せないことがある。理人は、間宮曰く寝込んでしまった恋人の世話を友人に丸投げして外出するような、冷血漢じゃない。  だったら、家にいるのなら(そば)についていてくれなかったのは、なぜ?  鳩時計がのんびりと時を告げ、不安をまぎらせてくれた。そうだ、理人はきっと、どうしても外せない会議があるとかして出勤せざるをえなかったのだ。間宮に後を託すことじたい、不本意きわまりなかったはず。  出勤……? 朋樹は改めて上掛けをかぶりなおしかけた恰好で固まった。  そもそも理人はどういった業種の、なんという会社に勤めていたっけ?   基本中の基本のデータが欠落するのは、登山中に道しるべを見失ったも同然で、再びむくむくと不安が膨らむ。  寝込んでいたというのを信じた場合、浦島太郎の気分を味わってもおかしくない。そう、無理やり結論づけたところに、間宮がお盆を手に戻ってきた。そして、ベッドに寄せた椅子に陣取って厳かに(のたま)う。 「おまえの胃袋は、ほぼ空っぽだ。ゆえに固形物を食べる前の準備運動だ」  シェルターに避難するかのごとく布団にもぐり込んだのを引っぱり出し、抱き起こして、葛湯を掬ったスプーンで唇をつつく。朋樹が唇をへこませて拒んでも、粘り強くスプーンをあてがう。

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