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第37話
「……サービス過剰だ。そこは省くのが最低限のマナーだと、わきまえてください」
「ガサツで、すまんな。おおっと、手がすべった」
タオルの角が乳首をつつく形になったのは、絶対にわざとだ。朋樹はそう確信して躰を強張らせた。
理人が、単なる突起にすぎなかったそれを愉悦のスイッチに作り替えたのが災いした。今やすこぶる感じやすくて、ピアニシモで鍵盤をなぞる程度の刺激にさえ、鋭い反応を見せる。毛羽がかすめるにつれて、図らずもぷっくりと膨らんでいく。
看病のオプション、と称する忌々しい茶番劇に終止符を打ちたいのは山々だが、間宮のことだ。どうにかしてタオルを奪うそばから、面白がって乳首をじかにつまむくらいのことはやりかねない。
嚙み裂いた唇が血をにじませる。タオルが上半身を這い回っている間じゅう、朋樹は一万から逆に数えて堪え忍んだ。洗面器の湯を取り換えてくる、とのインターバルがおかれたときには、間宮は清拭ごっこに飽きて尻切れトンボに終わるかも、と期待した。
ところが読みは甘かった。
「ちょっ、ちょっと!」
跳ね起きた拍子に、ねじれたコードが手首に食い込む。だが、かかずらっていられない。ボクサーブリーフと一緒くたにズボンをずり下ろされるなんて、我慢の限界を超えている。
「図に乗るな、手をほどけ、で、二度とそのツラ見せるな!」
「モットーにつづいて、座右の銘は〝初志貫徹〟だ。ゆえに、ここも拭く対象だ」
「いやだってば、鬼畜、変態!」
罵声など商業施設のBGMさながら聞き流すにかぎる、という態 で、根元から鈴口に至るまでペニスを丁寧にぬぐって憚 らない。
猛然と身をよじってもコードはちぎれ飛ぶどころか、結び目が瘤 と化すありさま。かてて加えて、たぐまった毛布が足首に絡んでジタバタするさまは、さしずめ投げ縄で生け捕りにされた鹿だ。
朋樹は無理やりうつ伏せて、粘っこさを増す視線を遮った。やすやすと引っくり返されて、おれは七輪の上でこんがりと焼かれる餅か、と自嘲的に嗤う。あるいは奇特な住民によって洗い清められる、お地蔵さま。
そう、ツッコミでも入れないことには、恥辱にまみれた状況下で平静を保っておくのは難しい。たとえタオルごとふぐりを揉まれても、悪辣な手から逃れるべく芋虫のごとくのたくるような、醜態をさらすのは避けられる──。
「……っ!」
「すまん、力が入りすぎたか。ゆで卵の表面にへばりついた膜みたいなやつを剝がす要領で、そっと拭くのがポイントだな。タマつながりだけに」
おやじギャグがうっかりツボにはまって、危うく噴き出すところだった。それだけヤスリで神経を削られつづけているのだ。
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