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第38話

 おれは、お地蔵さま。自己暗示をかけて、ひたすら天井を睨んでいるうちに、こめかみの奥がちりちりしだした。  ──点滴に頼りっぱなしじゃ、つれていかれちまう。後生だ、少しでも食べてくれ……。  そんなふうに間宮が涙ながらにかき口説いてきながら、等身大の蠟人形めいてぴくりともしないおれの口許に、スープを運ぶ。葛湯の例より遙か以前に類似の光景が繰り広げられた、と記憶の番人が開かずの扉の鍵を掲げてみせる。  そういったイメージが目の前にちらつき、頭の芯が疼く。  消えろ、と朋樹は念じた。具合が悪いときに介抱してくれるのは理人。太陽が東から昇るくらい決まりきっていて、今回のケースは例外中の例外だ。  間宮が恩を売っておいてケツの毛までむしるような真似をする、と予想がつけば、理人だって朋樹の世話を間宮に頼んで出かけるのは取りやめたはず。  なのに、不思議だ。螺旋を描きながら内腿をすべる手の感触は、誂えたようにしっとりと馴染む。  白樺の林の向こうへ意識を飛ばした。理人が帰ってくれば、帰ってきさえすれば一件落着といくのだ。  間宮は半殺しの目に遭わされて金輪際、山荘の周りをうろつくことは許されない。  すなわち、お伽噺のパターンを踏襲して「めでたし、めでたし」。理人とおれは無菌室のように清らかな世界で、いついつまでも幸せに暮らしました──とさ。  しばし現実逃避に走っている間も、最上級の細やかさでタオルが肌を這い回る。あたかも性感帯の分布図に、新たな印をつけるようなやり方でもって。  嚙みちぎるのは無理とわかっていて、朋樹はコードに歯を立てた。くやしいかな、表面のゴムをこそげるにとどまり、あまつさえタオルがむこうずねを上下するころには、ペニスに異変が生じていた。  はしたない萌しを見せる、それ。  自己嫌悪と羞恥心、事の元凶である間宮に対する憎しみ。それらをない交ぜに目縁(まぶち)が赤らむ。  膀胱が一杯になると尿意をもよおすのと同じ理屈で、ただの生理現象だ。パニックに襲われる予感に、息苦しさに苛まれる自分をなだめ、グロテスクな事象を思い浮かべて、ペニスが萎えるよう努める。  だが、遅きに失した。間宮は副木(そえぎ)を当てて固定するふうにペニスに手を添えると、 「ついでだ。射精()してやる」  ぐっと顔をうつむけるなり口に含んだ。 「やめてください、やめろって! ……ん」  しょっぱなから狙い澄ました舌づかいで、ねぶられる。朋樹は今さらめいて罠にかかったと感じた。のちほど別のやり方で愚弄する伏線を張っておく意味で、いわば清拭ごっこと洒落込んだのだ。 「天邪鬼で口がへらない持ち主と違って、こいつは素直だな」  採寸するように、輪郭に沿って舌が蠢く。ひとたび下腹(したばら)が甘やかにざわめくと、制御するのは至難の業だ。

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