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第40話
朋樹は両手の自由が利かないまでも、澄まし顔に枕を叩きつけた。痛っ、と呻き声がくぐもり、だがスッとするどころか自分に対して猛烈に腹が立つ。
刺し違える覚悟で抵抗していれば、いかに厚かましい間宮といえども、たじたじとなって逃げ帰った。撃退できなかったのは、ひとえに気迫に欠けていたせいだ。
「……あんたと同じ部屋の空気を吸うのもいやだ。失せろ、とっとと出ていけ」
てめえのことは棚にあげて被害者ヅラして。形の上ではどうあれ、口淫に屈した時点で間宮の共犯者になり下がった。
朋樹は、がっくりとうなだれた。慙愧 に堪えないとはこのことで、理人とともに大切に育んできた愛に、自ら醜いうえに修復不可能な疵 をつけてしまった。
どれだけ悔やんでも取り返しがつかない。それでいて花芯は駄々をこねる。ねっとりとかき混ぜてほしげにひくつき、おかげで自己嫌悪という沼にずぶずぶと沈む。
しかしペニスを玩弄されたのは、ほんの序の口だった。隙をついて組み敷かれ、灼熱の、憎悪のこもった眼差しを向けて返す。
「野蛮人。一生涯、赦さない!」
「一生涯……か。この将来 、何十年もおまえの心の中に居場所を確保できりゃ、本望だ」
戯言 ではない、冀 ってやまない、と熱っぽい口調が物語る。
ところで冷えピタ以外にも、ケア用品の類いがナイトテーブルの上に載っていた。発熱によってかさついた唇に潤いを与えるために用意されたワセリンには別の使い道があった──ということだ。
間宮はごっそり掬うと蕾と内 に、それから自身にもたっぷりと塗りつけた。
「せっかちで悪いな。おまえが俺を、間宮鱗太郎だと認識している間にすべてが欲しい」
「レイプごっこだろ? ごっこ……だよね、だよね? お願いだからこれ以上、理人を裏切るな、裏切らせないで!」
力ずくで這わされ、獣が番う姿勢を取らされた。たくましい躰が背後から覆いかぶさってくれば、もはや嬲られるのは時間の問題。
秘処が暴かれた。いきり立った雄が、恣 に蹂躙する予告編のように狭間を行き来する。
前戯は省かれ、凌辱者は恨み重なる間宮。花筒は理人ひと筋で、すこぶる貞淑。侵入を阻む条件がこれだけそろっていれば、目論見通りにいきっこない。ところが誤算があった。妖しくぬめるそこ自体が差し招くように、そわつく。
「……さ、わるな……くっ……ぁ、うっ!」
カリを梃子にこじ開けられた。襞が軋めき、鋭い痛みが全身を貫く。にもまして心がずたずたに引き裂かれるようで、許容量を超えた苦しさに視界が真っ赤に染まる。
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