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第41話

「希望的観測だが、可能性は一パーセント未満だが。強烈な体験は記憶の隅っこに引っかかって消え残るかもしれない。俺はどんな形にせよ、おまえの中に爪痕を刻みたいんだ」  問わず語りが切々と空気を震わせ、だが食われる者の胸にはギターを爪弾いたほどにも響かない。  穂先が玉門をくぐり、回帰不能点(ポイント・オブ・ノー・リターン)を超えた瞬間、それは自衛本能のなせる業だ。いわば幽体離脱を果たしたも同然に、地獄に()とされたという感覚が徐々に薄れていく。  朋樹の魂は、最愛の男性(ひと)のそれを探し求めて時空をさまよう。幾世紀どころか、一億光年の距離で隔てられていても、必ずや巡り会う宿命(さだめ)にあると信じて。 「あしたになれば、おまえはどうせ忘れちまう。好きだ……ザルで水を汲むのと似たようなもんだが何度でも言う。おまえが好きだ」 「ぅ、あ……ひ……ぃっ!」  ずぶりと攻め入ってこられて、いちどは肉の環が狭まって()ねつけたものの、熱情にほだされたように奥へと通す。一ミリ、また一ミリと征服されるにしたがって、ひなたに置いた氷柱さながら現実と妄想の境目が溶けだす。  おれが身も心もゆだねるのは地球上でただひとり、添い遂げると誓った理人だけ。仮定の話でも虫唾が走るが、もしも他の男に辱められることがあれば確実に気が()れる。  刺し貫かれて幸福感に包まれるということは、内奥に在って荒ぶるのは……。  導き出された答えは、最高級のダイヤモンドより燦然と輝く。  木偶(でく)生命(いのち)を吹き込む儀式を思わせて粛々と律動が刻まれるなかで、想像力という武器が答えに肉づけをほどこしていく。  六つ年上の恋人──篠田理人は一等航海士で、豪華客船で采配を振る。それゆえ、ひとたび出航したあとは離れ離れの切なさを味わうのだ。  そう、逢瀬が叶う夕べを待ち焦がれる織姫と彦星なんか目じゃないほど。今回にしても長らく洋上にあったのが、ようやく帰国を果たして狂おしく愛し合っている最中なのだ。  時には大胆に、かと思えば繊細な腰づかいで、えぐり込まれる。乳首はほの赤く色づき、ペニスははち切れそうで、内壁が猛りにじゃれつく。  愛情という糸で()ったもので雁字搦めにするように、分かちがたく結ばれた現在(いま)が至福のとき。  朋樹は肩越しに振り向いた。ただ、快感に溺れているという以上に複雑にゆがんだ顔を見つめて、微笑(わら)いかけた。そして、こってりと生クリームをからめたような声で囁く。 「おかえり、

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