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第44話

 さて通い慣れた道を走り、冬枯れた白樺の林に差しかかるころには、ぼたん雪が粉雪に取って代わっていた。山荘の赤いとんがり屋根は、デコレーションケーキを彩るイチゴのように、銀世界に映える。  そして雪に閉ざされてしまえば、朋樹は冬眠に入ったシマリスさながら山荘にこもりきりになる。ふらふらと林の奥に迷い込んだのを捜して、つれ戻すという心配が減るぶん、間宮的には吹雪くのもあながち悪いとは思えない。  ほの白く煙が棚引く煙突を振り仰いでから、いつもの通りEV車を木柵に横付けにした。庭を突っ切り、玄関前のポーチに立つと、ふくよかな香りがほんのりと漂ってきた。  また、が入ったのか? えぐみの強い切なさを覚えながら、そう思う。深呼吸ひとつ扉を開け放ち、殊更ほがらかに呼びかけた。 「うぉおい、邪魔するぞ」  ややあって朋樹が廊下の奥から現れた。スリコギと鍋の蓋で武装しているうえ開口一番、言葉の(やいば)で斬りつけてくる。 「他家を訪問したさいはまず呼び鈴を鳴らし、その家の(あるじ)に用向きを告げてから扉を開けてもらうのが常識です。マナーの基本を勉強すべきですね」  きのう様子を見にきたときも、朋樹は同様に辛辣な科白をまくしたてた。  もっとも二十四時間単位でリセットが行われるため、(くだん)のひと幕はすでに記憶からこぼれ落ちた──。    間宮は、おどけて三和土(たたき)にひざまずいてみせた。そして、ジャジャーンと擬音を交えて紙袋を差し出す。 「貢ぎ物……もとい手土産のレモンスフレに免じて、ご容赦のほどを」  つまり朋樹の好物を調達してきた甲斐あって仏頂面がやわらぐ。本人は、理人と一緒に開拓したお気に入りのパティスリーで買い求めたものだ、間宮にしては気が利いている、と思ったようだが、それは違う。  朋樹にしてみればつい最近、実際には不慮の事故に遭ってから十五年の月日が経つあいだに、行きつけのパティスリーはつぶれた。界隈の店は、ずいぶんと入れ替わった。  誤りを指摘しても、嘘をついていると思われるだけ。間宮はマフラーをほどき、ついでにスリコギをそれとなく奪い取った。  レモンスフレに限らず、✕✕を食べたいとねだってくれれば、波照間島だろうが礼文島だろうが、ひとっ走り行ってくること請け合いだ。好物ひとつで笑顔を見せてもらえるなら安いものさ、と内心デレデレするのだから。  と、朋樹が鍋の蓋をひと振りした。 「では、おっしゃるとおり貢ぎ物で懐柔されて差しあげます。おれはと違って礼儀をわきまえているのでコーヒーくらいごちそうしますよ。で、飲み終わったら帰れ」

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