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もっと触れて、早く落として

 情事中の自分を思い出すと恥ずかしくなる。完全に理性がぶっ飛んでいるから、高松に『お願い』して煽るようなことや、とにかく恥ずかしいことを言ってしまう。しかも、高松曰く喘ぎ声が大きいらしい。理性は無いが記憶はあるから、思い当たる節もあるし、恥ずかしいことこの上ない。思い出すと悶えてしまうから、出来るだけ余計なことは考えないようにしている。  しかし、今日の俺は違うのだ。この恥ずかしい自分をなんとか克服してやろうと、余計な気を起こしている。  思い出して恥ずかしくならないように、とにかく我慢してみようと思う。イキたいとか、もっと欲しいとかそういうことは言わず、声も我慢する。新しい試みだ。 「というわけで、今日は色々我慢しようと思う」  胸を張って、俺の素晴らしい計画を高らかに宣言した。自分でも変なことを言っている自覚はあって、完全に思いつきで行動している。これはこれで変なテンションだ。 「それ、俺に言ったらどうなるか分かってます?」 「……なんとなく分かるけど、協力しろよ」  意地悪なコイツのことだ。我慢できないようにいつもより激しくして、色々言わせたいんだろう。一緒にいる時間も長くなってきたから、なんとなく分かる。 「無理だと思いますよ」 「お願いしてもダメ?」 「意地悪したくなっちゃうかなあ」 「うーん……。じゃあ、これは命令だ。言うこと聞かないと、しばらく口聞かない」  これなら高松だって断れないだろう。他でもない『大好きな恋人』からの命令なんだからな!  高松は逡巡して、観念したのか口を開いた。 「命令ねえ……。じゃあ仕方ないですね。我慢して恥じらう尾上さんも可愛いから、良いか」  高松はいつもよりニコニコと笑って、俺の左手をとった。何をするのかと思えば、そのまま口元に左手をもっていき、薬指にキスをするのだ。思わぬ行動に驚いてしまう。 「今日はとびきり優しくしますね」  そのキザな振る舞いに、俺の方が恥ずかしくなってしまう。 「……意地悪すんなよ」    まじまじと高松の身体を見つめていた。程よく鍛えられ、引き締まった身体だった。筋トレをしているところも見ているし、そもそも裸なんて何度も見ている。それなのに正面から向き合うと、何故だろうか、恥ずかしくなってしまう。 「今日は向かい合ってするのか……?」 「尾上さんとくっついてたいからね」  視線を合わせ見つめ合うと、高松がいつもより優しげな瞳をしていて、胸が高鳴ってしまう。 「キス、しよっか」  高松の右手がゆっくり近付く。目を閉じた。  その右手は頬に添えられると思っていた。まさか顎を掴まれるとは思わず、大袈裟に驚いてしまい、身体が強ばってしまった。こんなこと初めてだ。  高松は顔を寄せて、唇に軽く触れるだけの口付けをする。そのまま唇を啄むように可愛らしいキスを続け、時折漏れる高松の吐息に何故か興奮してしまった。こんなはずじゃない、この程度で変な気持ちになるなんて。 「どうしたの? もしかして、嫌?」  高松は俺の頬に口付ける。いつもは、こんなに可愛らしいことはしないのに。 「いや……違う、けど」  子供のようなキスで興奮しましたなんて言えるわけがない。優しいのは嬉しい、嬉しいけれど、優しすぎて戸惑ってしまう。可愛らしい少女のように扱われたいわけじゃない。 「一応言っとくけど、俺は可愛らしくしたいんじゃないし……弱くもないし」  女性の代わりにされるのだけは真っ平御免だ。昔からそれだけはどうしても譲れない。そう高松にも話してある。 「ああ……ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです」  背中に手を回され、抱きしめられた。  壊れ物のように扱われるのは好きじゃない。もう何度も身体を重ねているのだから、高松だって俺がそこまでヤワじゃないことも知っているだろう。  別に優しいのが嫌なわけではない。むしろ嬉しい。だから、いつも通りにしてほしいんだ。あったかくて愛しくて、それだけでなんでも良くなってしまうから。こういうのは惚れた弱みだろうか。 「本当に我慢出来る?」  耳元で喋るものだから、くすぐったい。 「出来るよ」 「えー本当? たぶん、我慢出来ないですよ」 「なんだよ。そんなことないだろ」  少しムッとする。俺のことをなんだと思っているんだ。多少の堪え性はある。 「俺も鬼じゃないんで、ハードル下げませんか? なにもかも我慢しろなんて無理だし、俺も尾上さんのやらしい姿は見たいし」 「じゃあ、どうすれば」 「うーん。尾上さんの中で、どうすれば『我慢できた』ってことになるんですか?」  そこまで詳細に考えてはいなかった。後で思い出した時に恥ずかしくならない、その手段として我慢を選んだだけだ。 「分からんけど……声を我慢するのと、早くイかせろって急かさないとか?」 「そっか、どうしようかな……。じゃあ、今日は『早く』と『もっと』って言葉は禁止。ゆっくり、イチャイチャしながらセックスしましょう。でも、その二つ言ったらお仕置きですよ」  耳たぶを甘噛みされ、吐息を吹きかけられる。肩がピクリと跳ねた。俺は耳が弱い。高松はそれを知っているから、とにかく耳を責めてくるのかもしれない。 「お仕置き……」  お仕置きという言葉の響きに胸を打たれる。こんなことで心惹かれてしまう自分が嫌だ。 「お仕置きはそうだな……俺の前で一人でシて」  高松の目の前でオナニーしろなんて、恥ずかしいに決まっている。それに、一人で放置されるような『お仕置き』は全く想定していなかった。高松にこう……色々してもらったり、いやいやしてみたり、そんなことをしてみたかったのに。 「なんで……? 俺はお前としたいんだけど」 「それじゃ、お仕置にならないですよ。尾上さんは良い子だから我慢できますよね? まあ、本当はお仕置きなんていらないはずなんですけど」  喉から出かかっていた言葉をぐっと堪えた。ここで反論したら我慢が出来ない奴だと思われてしまう。というかこの質問じゃ、イエスと答えてもお仕置きの約束を取り付けられて、どちらにせよ負けじゃないか。自分で我慢すると言ってしまった手前、もうやるしかないのだ。 「良いじゃねぇか。やってやるよ」  売られた喧嘩くらい買ってやる。  俺はやっぱりキスが好きなんだと思う。舌を吸われるのも、思い切り口内を荒らされるのも好きだ。酸素が薄くなって頭がぼーっとして、ふわふわとしていて気持ちがいい。いつもよりゆっくりと時間が流れている気がするから不思議なものだ。  裸で抱き合っていると、高松の体温を直接感じられるし、人肌の温もりはそれだけで安心する。彼の匂いや息遣いが伝わって、まるで包まれているかのようだ。心の底から高松のことが好きだと、そう思えるのが嬉しかった。 「手を繋ぎませんか?」 「うん……いいよ」  背中に回していた腕を前に戻した。見つめ合うのが恥ずかしくて、少し目線を逸らす。 「尾上さんって、こういうのは恥ずかしいんですね」 「あんまり、人と手繋ぐことなんてないだろ。しかも、こんな……」  高松が両手の指を絡めてくる。『恋人繋ぎ』なんだから、恋人としかしないことなんだぞ。 「やっぱり、おれ尾上さんのこと大好き」  優しく微笑むものだから、嬉しくなってしまう。その表情が好きでずっと見ていたいと思う。 「……俺も好きだよ」  気恥ずかしくもあるけど、目を合わせて伝えたかった。大好きで愛しくて、一緒にいると幸せになれる人。高松のおかげで、ずっとずっと幸せだ。  我慢できなくて、唇を重ねた。舌先で唇をつつくと、高松の舌に絡め取られる。そのまま時間も忘れて、息が上がるのも気にせず、夢中で貪っていた。 「ふぅ……んんっ……」 「可愛い……」  離れていく唇が恋しい。唾液が糸のようにお互いを結んでいる。 「尾上さん、ほんとにキス好きですね」  高松は俺の下腹部を一瞥した。 「触ってないのに、もうこんなに」 「……悪いか」  本当はもっと触って欲しい。ふわふわと気持ちいいけれど、刺激は足りなくてもどかしい。 「ううん。ちんぽ気持ちよくなりたい?」 「……うん」 『お仕置き』なんてなければ、もっともっとと急かしているのだろう。ずっとお預けされているような気がして、頭が気持ちいいことでいっぱいになってしまう。 「じゃあ、気持ちよくなろうね」  繋いだ右手が離れていくのを寂しいと思ってしまった。少しでも長く触れていたくて、一瞬息を詰まらせてしまう。 「こっちの手は繋いだままだから、大丈夫だよ」  高松は左手をぎゅっと握った。何もかも見透かされていて恥ずかしい。  高松は俺のペニスに手を添えると、いつもより優しく握った。擦るというより、指先でなぞるようにして触るから、その繊細な刺激に、焦らされた身体が痙攣するように跳ねてしまう。 「すごいビクビクしてるけど大丈夫?」 「大丈夫、じゃない……」  もどかしい。ゆるゆるとした刺激にすら反応してしまい、ずっと気持ちがいい。もっと欲しい、早くイきたいと、縋るように高松にもたれかかってしまう。 「高松のちんぽ……」 「もう欲しいの? 我慢するんでしょ?」 「うぅん……は……」  はやくと言いかけて、慌てて口を閉じる。気をつけていないと、口から飛び出てしまいそうだ。 「ふふ……ちゃんと約束守れて偉いですよ」  高松はいつもの調子で右手を強めに握ると、上下に擦り始めた。 「あ♡♡んっ……ん……」  多少声は漏れたが、唇を噛んで出来るだけ声を殺した。喘ぎ声が大きいと言われたことを気にしてしまう。 「唇噛んじゃダメ」 「んん……だって声、出るっ……」 「じゃあ、塞いであげるから」  勝手に声が漏れてしまう、ダメな唇を高松は塞いだ。思い切り噛んで付けてしまった歯型を、優しく労わるように舌でなぞられる。 「ん♡……ふっ……ぅっ……」  ペニスに加えられる刺激が、バカになった頭を抜けていく。前も良いけれど、どうしても高松のモノが欲しくてたまらない。  ここで理性を手放したら、自分がどんなことを口走るか分からない。『早く』と『もっと』。言ってはいけない言葉ばかりで頭がいっぱいになる。あの快楽に溺れたい、楽になってしまいたい。 「んんっ……た、たかまつ……」 「どうしたの?」 「もうっ……挿れてくれないなら、勝手に入れるっ!」  もう我慢の限界だった。身体を密着させ、肩を掴んで高松のペニスの上に跨った。さすがの高松も俺がそこまでするとは思わなかったようで、驚いて焦っている。 「ちょっと! まだ後ろ触ってもないのに!」 「準備してんだから入る!」  ペニスの先を穴に擦り付けるようにして、ゆらゆらと動く。焦らすようなことをしていたら、俺も高松も我慢出来ないことは目に見えている。 「もう、分かったから! 挿れるからちょっと待って」  高松はサイドテーブルの引き出しからコンドームを取り出し、手早に装着した。その隙に、俺はローションを手に取って雑に自分の後孔に塗り込む。ついでに高松のペニスにもボトルからたっぷりぶっかけておいた。 「これでいいだろ」 「そんな……」  返事は聞かずに、後ろに手をつき、跨って挿入した。高松の制止の声も聞かずに腰を落とし切ると、奥まで届いて目の前がチカチカする。 「んっ……あ゛♡ああ♡♡」 「結局、我慢できてないじゃん……! そんなにちんぽ欲しいのかよッ!」  何故だか少しイラついた高松に、下から勢いよく突き上げられて奥をゴンゴン攻められると、もう何が何だか分からなくなる。とにかく気持ちいい、もっと気持ちよくなりたいと思ってしまう。 「んんぅ♡♡ああ〜♡♡♡あ゛♡あっ♡♡」 「あーあ。もうぐずぐずじゃん」  腕を首に回して、足も背にまわしてしがみつく。肩口に顔を埋めて、内で暴れる快楽に耐えようとしても、おそらく無理そうだ。 「我慢出来そう?」 「んッ♡……んっ♡♡……ふっ……」  僅かに残ったなけなしの理性で、声を抑える。それでも小さく喘ぎ声が漏れてしまい恥ずかしい。 「んんっ♡……あ♡もう……」  高松に正面から抱き抱えられるのは好きだ。愛しいと思う気持ちで頭の中が満たされて、口からあふれて零れそうになる。  何度もイけるんだから、早くイキたいと思う俺はわがままなんだろうか。抱き合うのは、ゆっくり長くセックスするのに向いているのかもしれないが、焦らされるのは苦手だから、余計にイキたいと思ってしまう。我慢をするという名目で始まったセックスとはすこぶる相性が悪い。  軟弱な俺はすぐに疲れてしまい、もだもだしたまま肩で息をするだけだ。 「高松……やっぱ無理かも」 「もう動けない?」 「……は、早くイキたい」 『早く』と言ってから、自分の過ちに気がついた。  結局何もかも我慢できなくて、情けない醜態を晒しただけじゃないか。 「いや、これは違う……!」 「いいですよ。ここまで来たら俺も、もうイきたい」  高松は浅く息を吐いた。押し倒されるとゆりかごのように揺れて、奥が刺激される。ベッドに押し付けられて、小さく声が漏れた。 「はは……俺の方が我慢出来ないじゃん」  逆光は高松の顔に影を落としていた。高松は自嘲気味に笑っていた。ギラついた瞳に捉えられ、ぞくりと背筋が粟立つ。頭が煮えたぎっている。早く食べて欲しい、奥の奥まで全部、貪り尽くしてほしくて仕方がない。 「はやくっ……ほしい」 「はー……尾上さん」  大きく息を吐いたと思えば、噛み付くように口付けられる。先っぽだけめり込んでいたペニスが一突きで奥を穿つ。最初から容赦のないピストンにくらくらした。越えてはいけないところを何度も何度もこじ開けられ、ただでさえ余裕もなにもなかったのに、なけなしの理性さえも手放してしまう。 「あ゛♡ああ♡♡も゛ぉっ……無理ぃ♡……頭おかしっ♡♡たかまつっ」  喘ぎ声なのか呻き声なのか分からない、下品な声が出てしまう。無意識に背に足を絡めて、高松のペニスを奥へ奥へと導いていた。コンドームを付けていても、中に出される感覚を思い出してしまう。 「あー、えろ。っん……だめだよ、煽ったら」 「んんー♡♡……あっ♡あ?」 「もうわかんないか」  頭の中は気持ちいいと好きでいっぱいで、もう何も考えられない。 「イ゛きたいっ……♡やっ♡ん゛ん♡♡……もっと♡もっと」 「いいよ……俺もイキたい」  高松の悩ましげな表情に興奮する。あの高松が自分に欲情して気持ちよくなっているという事実が、いつまで経っても嬉しくてたまらない。  ピストンが早まって、奥を何度も突かれると限界が見えてくる。 「あ♡あ゛あッ♡♡けんたろう、もうダメ……イく!」  最近はイく時に『健太郎』と、名前を呼び続けている。愛しくて幸せで、その方が気持ちよくなれるから。  嬉しくて頭が真っ白になって、背中を反らして感じ入ってしまう。うわ言のようにイくと何度も繰り返して、身体をがくがくと痙攣させていた。 「俺も限界。おがみさん……出すね」 「おれ、イ゛ってるから♡♡……けんたろ……けんたろぉ♡♡」  高松は奥へ打ち付けるように何度か動いて、身体を震わせ、深く息を吐いた。 「たかまつ」  高松の両手首を掴むと、手の甲をなぞるようにして指先に触れる。そのまま指を絡めて、しばらく荒れた息を整えていた。  好きで好きで仕方がない。手を繋いで抱き合っていると、高松の体温を知っているのは、この先俺だけであって欲しいと思うのだ。   「条件緩くしたのに、結局我慢できませんでしたね」  高松は使用済みのゴムを結んで、近くのゴミ箱に捨てた。 「う……不甲斐ない」  少し落ち込んでしまう。喘ぎ声が下品でデカイことを、曲がりなりにも気にしているのだ。 「でも、おねだり出来なくて悶えてる尾上さん、可愛かったです」 「そ、そうか」  正直なところ、密着して優しく責められるのは興奮した。それが伝わっているのだと思うと恥ずかしい。 「尾上さん、手繋ぐの好きなんですね。キスも好きだし、可愛らしいとこありますよね」 「うるさいな……。もういいだろ」  もうそんなこと言わなくてもいい。高松と触れていられるのが嬉しいなんて、バレたくないんだ。 「これからいっぱい手繋ぎましょうよ。俺は尾上さんに触っていられるだけで嬉しいんです」  高松だって俺と同じなんだと思うと嬉しくなる。  もっと触れていたい。ずっと、ずっと。

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