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第7話┋誕生日プレゼントは俺!

 二人でソファに並んでは、土曜の昼間っからアクションゲームに熱中していた。  高松がやろうと言いだしたのは、二人プレイが出来るゲームだった。集中してやり込んでいたら、あっという間に時間は過ぎ、気づけば夕方になっていた。 「そういえば、お前の誕生日いつなの?」  別にきっかけがあったわけではない。ただ、ふと思い浮かんだ言葉を口にしただけだった。 「来週の29日ですよ」 「は? そんなのすぐじゃねえか」  動揺して手が滑ってしまった。自分のキャラクターがテレビの中で意味の無い動きをしている。  何の気なしに聞いたのに、まさか、誕生日が来週だなんて思いもしないだろう。  どうして今まで聞かなかったんだと、自分を責めてもあまりに遅い。 「あれ、言ってませんでしたっけ」 「聞いてない……」  一週間で用意出来る物なんて限られている。今から選んで取り寄せても、間に合わない可能性だってある。なにより、妥協したものは渡したくなかった。 「なあ、お前欲しいもんないの?」 「うーん、今は特に。強いて言えば尾上さん食べたいかな〜なんて」 「またエロ親父みたいなこと言う」  遠慮しているのか、本当に欲しいものがないのか、どちらなのかは分からないが、本当に困ってしまった。 「冗談ですよ。美味しい物食べて、ケーキ食べましょうね」  高松は優しくそう言ってくれる。そりゃあ、ケーキくらいは用意するよ。でも、それだけじゃ俺の気が収まらないんだ。  2024年7月29日の三分前、高松の部屋の前でその時が来るのを今か今かと待ち構えていた。隠し事が出来ない馬鹿正直な性格のせいで、今日一日高松と自然に接することは出来なかったが、それもこの瞬間のためだ。  時計の秒針まで確認し、0時ジャストのタイミングで、勢いよくドアを押し開ける。 「誕生日おめでとう、高松!」  いつもより五割増しの声量とテンションで高松に声をかけた。  驚いてキョトンとした顔の高松と目が合う。寝巻きに着替えてゆっくりしていたところを、俺はお邪魔してしまったらしい。 「お、尾上さん……?」  つかつかと部屋の中に入り、いまだ状況を飲み込めていない彼の元へと歩み寄る。そのままベッドに入り、ピッタリとくっついて横になった。 「生まれてきてくれて、ありがとう。四十二歳だろ? これで俺と同い年だな。……三ヶ月だけ」  高松は面白い顔をしていた。  鳩が豆鉄砲を食らったらこういう顔をするのだ、と言わんばかりに目を見開いていた。  高松の驚いた顔を見ると、思わずにやけてしまう。普段は余裕のある彼が驚いたり、狼狽えている様を見るのは楽しい。  四十にもなれば、自分の誕生日なんてあまり気にしなくなる。でもそれは、自分の誕生日の話で、恋人の誕生日となれば話は別だ。  俺は高松の誕生日を祝えることが嬉しかったのだ。大したものは用意出来なかったけれど、気持ちだけは誰にも、何にも負けない。 「なんかソワソワしてると思ったら……。ありがとう、尾上さん」 「ううん、ケーキくらいしか用意出来なくてごめんな。それも、仕事終わりに取りに行くから今は無いんだけど……」 「いやいや、気持ちが一番嬉しいんですよ!」 「でも、それじゃ……俺の気が収まらなくて」 「それなら、やっぱプレゼントに尾上さんもらっていいですか〜? なんて……」  抱きついて、高松の胸に収まるように顔を隠した。 「あ、ああ。その……いいよ。というか、そのつもりだったんだ」  だんだんと声が小さくなる。恥ずかしいことを言っている自覚はあるし、まともに高松の顔を見られる気がしない。 「へ……? い、良いんですか」  高松はきっと呆けた顔をして狼狽えているんだろう。  酷い羞恥心に襲われているが、高松が焦っている姿を見たくなってしまう。 「この前、俺のこと食べたいって言ってただろ」  当日まであまり時間もなく、良いアイディアも浮かばなかった俺がとった苦肉の策。それは── 「だから、今日だけは好きにしていいぞ」   プレゼントは、俺。  上目遣いで高松の瞳をじっと見つめていた。(高松の喜びそうな)コテコテのあざとさにまんまと引っかかってくれたらしく、高松は今まで以上に目を見開き、白黒させていた。  一週間、誕生日プレゼントを探し求め、頭をフル回転させて考え続け、結局用意できたのはバースデーケーキだけ。高松の趣味に合う物が思い浮かばなかったのだ。高松は欲しい物を自分で買い揃えているから、仕方がないのかもしれない。  大真面目に悩んだ挙句、高松が一番喜びそうなものは俺(のことを一日好きに出来る権利)だという結論に行き着いた。我ながら頭の悪い考えだったと思う。 「いや、尾上さん……俺は本当に嬉しいんですけど、ほんとに良いんですか……?」  小さく頷いた。こっちだって恥を忍んでこんなことを言っているんだ。あんまり、何度も言わせないでほしい。 「でも、痛くしないでくれ。痛いのは怖いから」 「痛いことはしないですよ。でも、どうしようかな……」  高松の反応はなんとなく読めていた。  それでも、この後何を言うのかまでは俺にも分からない。今まで聞いたこともないようなドギツイ性癖を暴露されたらどうしよう。高松のことだから、ありえないこともないなんて、少し身構えてしまう。 「そうだ、ちょっとだけいじめていい?」  この男は人の話を聞いていたのだろうか。痛いのは嫌だって言ったばっかりなのに。俺はなにをされてしまうんだろう。 「い、痛くしないよな?」 「大丈夫」  高松はベッドを出ると、クローゼットから綺麗に畳まれたタオルを何枚か取り出した。そのうちの細長い一つ、マフラータオルを手に持っている。なにをするのかと大人しく見ていれば、俺の腕にそのタオルを巻き付けてきたのだ。 「じっとしててね、ちゃんと緩くするから」 「な、何するつもり……!」  口ではそう言いながら、縛られるんだと頭では分かっていた。強く抵抗もしなかった。  身体の前で、手首をタオルで縛られる。高松の言う通り、確かに拘束は緩めだった。頑張れば外せるかもしれない。 「嫌?」  言葉ではそんな優しいことを言いながら、覆い被さるように抱きしめてくる。ダメだなんて言わせてくれない。 「これで本当にプレゼントになっちゃいましたね?」  耳元でそう囁かれると、一瞬で顔が熱くなる。  積もりに積もった羞恥心はピークに達していて、自分で言い出したくせに逃げ出したいくらいだった。 「そんな、わけじゃない……」 「ううん。期待してたんでしょ。好きにしてなんて言ったら、俺に何されるか分かんないし、ねえ?」  全部、図星だった。  高松の喜びそうな言葉を考えたのは自分自身だ。だから、なにか恥ずかしいことをされるのだと、分かりきっていた。高松のことを少しは知っているから。 「いっぱいプレゼントもらいますね」  拘束された両手を軽く抑えられ、噛み付くようなキスをされる。上唇を彼の舌が軽くなぞっていく。下唇を甘噛みされ、強めに吸われていた。いつもより激しいキスは強く求められていると感じた。  俺からも高松を求めたくて、唇の間をぬって、舌を差し入れる。舌先を包むように絡め合わせ、強く吸いついた。 「ん……♡ふぅ、う……」  息継ぎが上手く出来ない。息が浅くなると、酸素が薄くなって頭がぼーっとする。高松の吐いた息を吸っているようだった。両手の拘束さえなければ、抱きついていただろう。  唇が離れていくのと同時に寂しさを覚える。唾液が糸のように引いて、お互いを繋いでいた。 「尾上さん。もっと気持ちよくなりたい?」 「え、なに……?」 「頭浮かして」  高松はもう一枚のタオルを俺の頭の下に通した。 「メガネ外すよ」  目の前が真っ赤になる。頭の横あたりで結び目を作っているようだった。うっすらと透けているが、ほとんど前は見えず、視界が遮断されてしまう。 「アイマスクなんてないからごめんね。……あれ、こんなに雑な拘束で、期待しちゃってるんですか?」  ゆっくりと丁寧に、シャツのボタンが外されていく。高松は俺を焦らしているのだろうか。  胸の突起に息がかかる。いつその唇が触れるのだろうかと、期待して身体が震えた。待てども待てども刺激は与えられず、もどかしくて胸を突き出してしまう。 「雑な方が良いんですね」  ため息のように漏れたささやきが、耳に入ってしまった。  ──やらしい。  一瞬で頭が沸騰した。 「今日は好きにさせてくれるんでしょ?」  人肌ほどのぬるい液体が胸の先端に垂れている。唾液をたっぷりとかけられ、その突起は口の中に収まってしまった。優しく甘噛みされて、身体が跳ねる。 「ンっ……♡う……っふ」 「もう勃ってる」  先程まで柔らかかったそこは、弄られてすでに芯を持ち、硬く尖っていた。噛まれて吸われ、乳首はピンと勃ち上がって少し痛い。  高松が俺の下着の中をまさぐっている。勃ち上がったペニスを指で軽くなぞり、そのまま奥へと進んでいく。 「ここ挿れたいな」  指の先が俺の入口に触れた。身体の中に指先がめりこんでくる。 「ぬるぬるしてる……?」  耳元で囁く声が俺を辱める。 「言っただろ、準備してきたって……」  どうせこうなるだろうと思ったから、直前に自分でほぐしておいたのだ。  高松は俺の下着ごとズボンを下ろした。そして、まだぬるついたアナルに指先を入れ、そのままゆっくりと押し進めた。 「ホントだ、すんなり二本入った。ちゃんと準備してきたんですね。……俺に食べられるために?」  指の関節を曲げたのか、俺の良いところを掠めて小さく声が出てしまう。広げるよう動いた後、指がもう一本増えた。  流石に息が浅くなる。 「ん……んッ♡♡んんうっ」 「これならすぐ入りそう……ちょっと待ってて」  何も見えないけれど、物音は聞こえてくる。コンドームを付けているのだろう。 「この前買った、ゼリーいっぱいのゴム使おうか」  膝を抑えられ、思い切り足を広げられる。入り口に高松の先端が触れている。これから高松が入ってくるのだと思うと、緊張と歓喜で唾を飲んでしまう。 「なんか、これあつい……」  先日購入したコンドームは、先端に温感ジェルが大量に塗布されており、そのせいでいつもより熱を持っていた。  ペニスがアナルに少しずつ収まっていく。半分ほど入ったあたりで高松は静止し、覆いかぶさってきた。 「気持ちいい?」 「うん……」  拘束された両手首、遮断された視界、いつもより温かいペニス。擦られたところから熱が伝播して、麻痺していく。蕩けて、ぐずぐずになって、境界なんて分からなくなってしまっていた。  俺はきっと、高松とひとつになっている。  高松は浅い所ばかりでピストンして、気持ちのいいところを的確に責めてくる。簡単に快楽を拾う身体は、がくがくと震えてしまう。 「やっ、やだ……! すぐイ゙っ♡くから……待って」  身体が敏感に快楽を拾っている。すぐにイきたいと思ってしまう。このペースでは何回イクことになるのだろうか。 「何回でもイっていいんですよ?」 「ううん……♡くるし、だろっ」  気持ち良すぎるのは苦しい。息が上がって、体力も持っていかれて、何も考えられなくなってしまうから。  こんなに気持ちいいんだから、快楽に勝てるわけがない。加減して欲しいのに、高松は俺のことを好き勝手にする。 「イ、イキたい……いやっ♡あ゛〜っ♡」 「いやなの?」 「あ♡み、みえないのもっ、いやだ……」  気持ちいい、好きだ、でも不安だ。  高松の顔が見たくなってしまう。心細くてたまらない、抱きついてキスしてしまいたい。なにも見えないままイきたくない。 「……外して欲しい?」 「うんっ……あっ♡か、かお見せて。いじわる、するなっ」  高松はピタリと動きを止めた。それから、手首に巻かれたタオルに手をかけた。ゆるい拘束はすぐに解かれ、視界も自由になった。 「尾上さん」  視線がかち合う。思わず息を呑んでしまった。  俺を焦らして楽しんでいたはずの高松は、随分と余裕のない顔をしていた。息が浅く、瞳はギラついて、隠しきれない欲望がその奥で燃えている。  囚われてしまったと、そう思った。 「たかまつ。奥に、ほしい……」  キスがしたいと言うつもりだった。それなのに、高松を求める言葉が、自然と口から出ていた。  高松のものでいっぱいにして欲しい、奥まで感じたい。そんなことばかりが頭に浮かんでしまう。 「ああもう。ほんとに、煽ってばっかじゃん……!」  高松は少しイラついたように顔を歪め、一つ息をついていた。浅く律動するペニスが勢いよく最奥を捉え、自分の口から大きな嬌声が漏れる。 「あ゛ッ♡あ……うぅ♡急にっ……」  高松がそのまま腰を押し進めるものだから、奥の奥までねじり込まれているような感覚になる。そんなところまで入らない、これ以上挿れたら壊れてしまう。 「だめっ♡♡……もう゛、うっ、入らない゙ッ♡からぁ……♡」 「奥に欲しいって言ったのは、尾上さんでしょ。じゃあ、どうしてほしいの……?」 「うう♡……おくッ突いて、突いてほしい……♡」  もっとシたい、もっと気持ちよくなりたい。  思い切りナカを締めた。高松が身震いするのが嬉しくて、頬が緩んでしまう。 「はあ……もう加減出来ないよ」  引き抜かれたペニスが勢いよく最奥を突く。声を我慢出来るはずもなく、だらしなく開いた口からはよだれが垂れる。 「い゛っ! う……♡」  首筋に痛みを感じ、きつく目を閉じた。  高松の荒い息が首筋にかかる。こんなに獣のようにがっつく高松は初めてだ。 「あっ♡あ゛あ♡♡んん゛〜っ♡」  痛いのは好きじゃない。けれど、それ以上に気持ちがよくて、身体中が熱くて麻痺しているようだった。快楽だけを敏感に拾う身体に作り変えられている、そう思った。  体液が混じりあう。水音がやたらと耳につく。 「おがみさん、すき、好きだよ……!」  それだけの言葉で嬉しくなる。どんなことをされるより感じてしまう。 「あ♡ううっ……おれも、おれもっ♡すき♡すき……!」  ピンと伸びた足を高松の腰に絡めた。引き寄せるように力を入れる。 「あー……ほんと余裕ない。もう、イキそ……」  高松の息が浅くなる。自身の快楽を拾うためだけに、勢いよく何度もピストンをくり返していた。 「イく♡♡イっ、イって……♡あ♡あーっ♡うう……っ」 「キッツ……」  全身ががくがくと震える。  俺がイっても、高松はかまうことなく動き続けている。ずっと絶頂していて、苦しい。 「おがみさんっ……んッ……!」  一ミリにも満たない、薄いゴムの向こうにどくどくと体液が注がれているのが分かる。  大きく息を吐いて高松が微笑んだ。  愛しくてたまらなくて、俺まで笑みがこぼれていた。    二人で食べ切れるだけの小さなホールケーキを用意した。シンプルなイチゴのケーキだった。準備期間も短く、サイズも小さいけれど、少しでも良いものをと選んだものだ。  数本だけロウソクを刺した。リビングの明かりを消して、火をつけた。  綺麗な光がゆらゆらと揺れて、ほんのり辺りを照らしている。 「高松、誕生日おめでとう。……あと、ありがとう」  生まれてきてくれて、俺に出会ってくれて、付き合ってくれてありがとう。  全ての感謝を伝えたいんだ。 「俺こそ、ありがとう」  高松はロウソクに息を吹きかけた。  部屋の明かりを点けると、高松は涙ぐんでいるようだった。 「大袈裟だな」 「ロウソクの立ってる誕生日ケーキなんて、子供の時以来ですよ。この年になっても嬉しいもんなんだなあって思って」  確かに、高松の言うことも一理ある。俺だって、こんなケーキを高松からもらったら、すごく嬉しいと思う。ずっと忘れられないと思う。 「尾上さんの誕生日にお返しさせてくださいね」 「俺の誕生日知らないだろ」  少し威張るように投げかけた。 「知ってますよ。11月3日でしょ?」  正解だった。高松に誕生日を伝えた記憶はないのだが。 「……なんで知ってんだよ」 「付き合う前かな。自分で言ってましたよ、文化の日なんだって」  全く覚えがない。酒が入っている時にでも口走ったのだろうか。 「よく覚えてるな、そんなこと……」 「誕生日って祝ってもらえたら嬉しいじゃないですか。だから、覚えるようにしてます。自分からは言い出しにくいですからね」  こいつのこういうところがモテるんだろうなと、改めて思った。人を喜ばせるのも、懐に入るのも上手いのだ。 「ねえ尾上さん。誕生日だし、俺の言うこと聞いてくれますか?」 「うん、どうした?」 「来年の誕生日も、尾上さんを好きに出来る権利もらっていいですか?」  俺の顔色を伺うように、少し照れたように高松は言う。いじらしくて、不覚にも可愛いと思ってしまった。 「……来年になっても、お前の気が変わってなかったら、な」  先のことなんて誰にも分からない。だから、来年の誕生日になっても、お前の隣に俺がいるのなら、俺のことを好きにすればいい。 「絶対、変わらないよ」  なんの根拠もない自信だ。それでも、高松が言うのだからと信じてしまう。  彼を縛り付けるようなことは言いたくない。それでも、来年、再来年、その先と歳を重ねれば、一つずつ繋がりが増えていく。  そうしたら、言える時が来るのだろうか。  ずっと一緒にいたいと。

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