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夏の魔物
暑い、とにかく暑い。
駆け込むようにして家の中へ入る。帰ってきたばかりでエアコンもろくに効いていない部屋でも、外よりは何倍もマシだった。
デートをして、買い物をして帰ってきたばかりだ。真夏の日中に、照りつける陽の光を浴びて、身体は疲弊している。汗も滝のように流れていた。
「あつすぎる……」
今日は猛暑日だ。ただ、明日も明後日も猛暑日。毎日こうも暑くては身体も疲弊してしまう。
今年は例年以上に暑いだなんて、毎年言っているような気もする。金沢は一年を通して雨量も多く、湿度も高いから、ジメジメして不快指数も高い。
車移動しかしないくせに、暑い暑いと騒ぎ立てているし、正直建物の中から出たくない。
「アイス溶けてるんじゃないか……」
「うわ、ほんとだ。最悪」
買い物袋の中から、少し柔らかくなったアイスクリームを冷凍庫にしまう。カップアイスだから、溶けてもまだマシだと思いたい。本当はあまり食べてはいけないのだろうけど。
冷蔵庫に買った物を入れていく。
尾上さんは扇風機の前で溶けている。強風を顔面で浴び、宇宙人になっている。
「ワレワレハ、ウチュウジンダー」
俺まで宇宙人にしないでほしい。
「尾上さん、麦茶入れますねー」
「お、ありがとう」
冷蔵庫から冷やしておいた麦茶を取り出し、大きめの氷を入れたグラスに注いだ。喉はもうカラカラで、身体は水分を欲していた。
キンキンに冷えた麦茶を飲み干すと、身体が少しずつ冷えていく感じがする。
「あー! つめてえな」
尾上さんの喉仏が上下して、冷たい麦茶が胃の中に流れ込んでいくのが分かる。
首筋に汗が一筋垂れていた。
「テレビ付けるわ。お、甲子園か……石川県の代表って、次の試合いつ?」
別になんてことのない、鎖骨へと流れ着いた雫を目で追ってしまう。尾上さんは俺の視線に気づいていない。
「……おーい、高松。大丈夫か、具合悪いのか?」
俺を呼ぶ声で、ハッと我に帰る。取り憑かれたように意識が飛んでいた。
「えっ! ああ……ごめんなさい。ボーッとしてました」
尾上さんは、呆然とする俺を不思議そうに見て首を傾げては、新しい麦茶をコップに注いでいる。
「まあ、良いけど。はー……汗かいたし、先にシャワーしちゃうか」
尾上さんは白いシャツの裾を持って、扇風機の風を服の中に送り込むように仰いでいる。
少し汗ばんだお腹をついつい見てしまった。肉は薄いが、白くて触りたくなる肌だった。
触りたい。舐めたい。どうしても目を奪われてしまう。それもこれも尾上さんがエロいから。仕方がないことなんだ。
「あの、尾上さん」
魔が差したというやつだ。こんなに暑いから、ちょっとおかしくなってしまっただけ。
尾上さんが口を開く前に、唇で塞いだ。それから汗をなぞるように首筋を舐め上げる。
尾上さんは少し困っていた。そりゃそうだ。訳も分からず突然襲われたんだから。
「シよう」
答えも聞かず、少し乱暴にソファへ身体を押し付けた。尾上さんは今更慌てている。
「いや、今じゃないって……! せめてシャワーしてから」
「今がいい、ダメ?」
身動きが取れないように覆い被さり、耳元でソッと囁く。尾上さんは相変わらず耳が弱く、身体が震えていた。耳たぶを甘噛みして、穴の近くを舐めていると、ビクビクと震えてぎゅっと目を瞑っている。
時折、吐息混じりの声を漏らして身をよじっていた。
「まあ、逃がさないんですけど」
「んっ。お、お前っ……そんな強引にっ」
尾上さんは耳まで真っ赤になっていた。可愛らしい反応だ。
「……どうしたんですか?」
「な、なんでもない」
「嘘つき。いじめられたいんでしょう?」
尾上さんの中の被虐心を刺激したんだろう。身動きがとれなくて、逃げられない状態に追い込まれて、興奮したんだよね?
「……ふふ。いっぱいいじめてあげるから安心して」
「な、なんでもないって言ってるだろ。うう……挿れるなよ」
ダメだと言っても、結局許してしまうから尾上さんはとことん俺に弱い。そんな弱みに漬け込んでいる自覚はあるし、尾上さんが可愛いから悪いんだと心の中で言い訳して、なしくずしに襲ってしまう。一応これでも悪いとは思っている。
シャツをたくし上げ、可愛らしい乳首に吸い付いた。尾上さんは小さく喘ぎ声をあげている。
「んっ♡……ふう、んッ……♡」
尾上さんは気持ちがいいと唇を噛む癖があり、気をつけていないとすぐに唇を噛んでしまう。軽く釘を刺すと、気づいていなかったと言いたげな顔をする。
「あ♡……あぅ、ふっ♡」
反対側も指で優しく触ってやる。控えめに主張した乳頭を撫でた。徐々に力を強めていき、指の腹で押し潰したり、爪で引っ掻いたりすると、尾上さんは可愛らしい声を漏らしていた。
「あっ♡……ん、うっ♡」
首筋に伝う汗を舐めた。室内は冷房が効いてせっかく涼しくなってきたというのに、身体を密着させて激しい運動をしようというのだから、体温が下がることはないのだろう。
「……尾上さんごめん、待って。あっつい」
どうも我慢ならず、着ていたシャツを脱ぎ捨て、適当なところに放り投げた。額に伝う汗を手の甲で雑に拭う。
尾上さんは何も言わず、ただただ俺を見つめていた。
「どうしたの?」
「……お前、ほんといい身体してんな」
「見惚れちゃった?」
「まあ、その……そうかも」
尾上さんは視線を泳がせている。頬が色付いているのは、暑いだけなんだろうか。
健康のために始め、趣味になっていた筋トレだったが、鍛えてきて良かったと心底思った。尾上さんにはカッコイイと思われたい。
「じゃあ、俺に抱かれたいって思うの?」
からかうように、半分冗談のつもりで言っただけだった。それなのに──
「……ちょっとだけ」
尾上さんは蚊の鳴くような声で呟いた。全く目は合わなかった。
「だから、触ってくれ……」
息が荒い。
俺と同じように、尾上さんも夏の暑さでおかしくなっているのだろう。その方がお互い都合が良い。
待ちきれないのか、ズボン越しでも分かるくらいに尾上さんのペニスは張り詰めている。布越しに軽く撫でてから、ズボンのジッパーを下ろした。そのままテントを張っているパンツをずり下ろすと、ペニスが勢いよく飛び出した。思わず触ってしまいそうになるが、今はまだお預けだ。
脇腹を軽く舐めてから、腰を掴んで鼠径部を執拗に舐め回す。
「くすぐったい……」
下着の中で蒸れてしまったのか、汗の味がする。それがまたいやらしいと思ってしまう。
「な、なんでそんなとこ舐めるんだよ」
「汗と尾上さんの味がして美味しいですよ」
「変態……意味わかんないこと言うな」
シャワーも浴びていない、汗だくの身体を舐められる羞恥と、いつもと違う俺の責め方。恥ずかしくて仕方がないのに身体は期待しているのか、はたまた真夏の熱が籠っているのか、尾上さんの身体は熱く火照ったままだった。
「もうやめろ……その、汗臭いだろ。汚いし」
「汚くないですよ。尾上さん甘いし、美味しい」
嘘ではない。せいぜいしょっぱいであろう汗が甘いと思うのだから、不思議なものだ。尾上さんだから甘く感じるのかは分からない。でも、ずっと舐めていたくなる。
「い、意味分からん」
尾上さんは肩を震わせていた。
「なあ……焦らしてないで早く、ほら……高松。俺のちんぽ触って」
目を細めて、荒い息遣いで、自分から煽っておいて恥ずかしそうにしている。とろんと溶けた瞳が真っ直ぐ俺を捉える。
身体が、あつい。
「はは……えっろ。そんなこと言われちゃったらさ」
急いで下着ごとズボンをずり下ろした。俺も少しくらい気持ちよくなったって許されるだろう。
「え……?」
尾上さんのペニスには一切触れず、身体をひっくり返してうつ伏せにする。そのまま睾丸の裏に俺のペニスを擦り付けると、尾上さんは慌てだした。
「何すんだ、挿れるなって言ってるだろ!」
「大丈夫、挿れないから。お尻あげて」
何か言いたいことがあるんだろう。訝しげな顔をして振り向いていたが、文句も言わず、素直にお尻を上げてくれた。
足の間にペニスを挟み込み、ついでに尻を揉みしだく。いい尻だ。
そのままゆっくりピストンを始めた。
初めは身体を強ばらせ、逃げ腰になっていた尾上さんも、俺が本当に挿れる気がないと分かると、素直に感じ入っていた。
「んっ……♡こ、これっ、素股……?」
「そうだよ。気持ちいい?」
「ん。気持ちいい……♡」
脱力して、抵抗する様子はない。しばらく付き合ってもらおう。
ペニスを上手く合わせるのはなかなか難しい。足をまとめて閉じさせると、太ももの肉に挟まって、よりいっそう刺激は強くなった。
「尾上さんってどこもやらしいね」
「は? ひ、人のことっ、なんだと思ってんだ」
「ちょっとずつ肉ついてきたし……やらしい身体になってきたじゃん」
出会った頃はガリガリだったのに、今では『細身の人』くらいになったとは思う。上半身に肉が着いてきて、太腿も少し太くなったかなと思っていたところだ。そうは言っても筋肉がほとんどで硬いのに変わりはない。もう少し肉があると抱きやすいかなあ。
「んッ♡や、やらしくはない……」
覆いかぶさって、胸元に手を差し入れる。勃ち上がり、固くなった乳首を指先で弄んだ。
「ここ、コリコリなのに?」
「あっ♡そ、そこは……卑怯ッ……だっ♡♡」
明らかに尾上さんの感度が良くなった。身体をびくびく震わせながら、腰をゆらめかせている。ペニスに擦り付けるように動かれると、俺もたまらなく興奮してしまう。あまり我慢できない。
腰を掴んで軽くピストンする。尾上さんの睾丸から裏筋をなぞってやると、甘い声を出して悦んでいた。
先走りが混じり合って卑猥な水音をたてている。
「挿れてるみたい……」
「ぅあっ♡……あ♡」
暑い。額から汗が流れる。荒く息をして、一心不乱に腰を打ち付けていた。
許されるのなら本当に挿れたい。無理強いは出来ないから我慢するしかないが、可愛らしくヒクついたアナルを目の前にして、俺はどうにかなりそうだった。
「あっ♡……あ〜♡きもちい……」
「はー……可愛い。イキそ……」
「あっ♡……あ♡♡……おれもイき、たい……イ♡イかせてっ♡」
可愛くねだられると、もう理性なんてどこかに飛んでいってしまった。何度も激しくピストンをして腰を打ち付けてしまう。
「あっ♡♡イく……んん♡んッ……!」
尾上さんは身体を震わせ、白濁を吐き出してソファを汚していた。イッた直後で苦しそうにしているが、俺はもう止まれそうにない。
尾上さんの声はもう聞こえていなかった。
「ごめんね……!」
アナルに挿れていないだけで、こんなのセックスと同じだ。尾上さんの太もももペニスも生だから、ナマでヤってんのと一緒じゃないか?
「んッ……はあ。ね、お尻にかけていい?」
「う、うっ。やっ……?」
尾上さんはよく分かっていないようだった。
「んん……んッ、出る。イく……!」
太ももからペニスを引き抜いて、軽く手で扱いた。限界寸前だったから、すぐに尾上さんのお尻に思い切り精液をぶっかけた。垂れた白濁は、ヒクついたすぼまりを通って床に落ちた。
「はは……中出ししたみたいになってる」
「何言ってんだ、お前……」
「お前は……勝手に盛り上がって、人の尻にコキ捨てて!」
大目玉を食らってしまった。
「尾上さんだってイってたじゃないですか」
「お前が、始めたんだろ」
そう言われると、何も言えなくなってしまう。
床を汗と精液で汚してしまった。おまけにソファにも付いてしまったから、綺麗にするのが大変だ。
興奮して尾上さんの身体を好き勝手にしてしまったんだから、怒られるのも無理はない。大人しく掃除をする。
「ちんぽでズリズリされるの好きじゃないの?」
尾上さんから返事はない。
ダイニングテーブルを横目で見る。尾上さんはコップを手に持ったまま、口を噤んでいた。
「尾上さん……?」
「……まあ、気持ち良かったけど」
あれだけ怒っていたのに、やけに素直で可愛らしい反応だ。そんなに気持ち良かったのだろうか。なんだかんだ言いながら、嘘のつけない尾上さんが好きだ。
にやけ顔を隠しきれない。
「でも、そういうことじゃないだろ、変態。急に襲われる方の身にもなってみろ」
「えー。気持ち良かったんなら、またしましょうよ」
尾上さんはテーブル上の麦茶を飲み干した。大きかった氷は完全に溶け、コップは汗をかいていた。
「まあ、ちょっとだけ考えとく……」
汗ばんだ肌。別になんてことのない、鎖骨へと流れ着いた雫を目で追ってしまう。
尾上さんは俺の視線に気づいていない。
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