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甘え上手になりたい!

   高松を煽ってその気にさせたい。  別にセックスがしたいというわけではなく、無意識を装って煽りまくって、ドキマギする高松を見たいだけだ。  つまり、高松を手のひらで転がしてやりたいのだ。我ながら趣味も意地も悪い。  普段はからかわれて辱められてばかりだから、ギャフンと言わせてやりたいのだ。別にイチャイチャしたいとか、甘えたいとかそういうわけではない。断じて。  以前、高松を焦らして余裕のない様を楽しもうと画策したことがあった。見事返り討ちにあって、それはそれは酷い目にあった。  正直悪くはなかったけど、俺は高松の余裕のない顔が見たかったのだ。目的は達成されておらず、これじゃ不完全燃焼だろう。リベンジしなければ。  高松は俺のことをよく知っているから、露骨な言動ではなにかを企んでいることがバレてしまう。俺はギリギリを攻めたいのだ。  ボディタッチ、腕を触る、手を繋ぐ……色々方法はあるけれど、自然にバレないようにするのは多分難しい。演技なんて出来ないし、嘘をつくのも下手だから、ぎこちなくて怪しまれる気がする。  うだうだと頭で考えていても答えは出ない。それならなるようになってしまえと雑になってしまうのが俺の悪いところだ。行き当たりばったりで、なるようになれ!  日曜日の夜のことだ。  夕食も風呂も済み、寝る時間には少し早いから、ソファに並んで二人で映画を見ている。気になっていた映画が契約しているサブスクで見られるようになったから、高松も誘ってみた。  時間つぶしが目的だとしても、面白くなければ意味はない。  退屈だ。どうも期待はずれで、あまり面白くない。展開がゆっくりでダラダラしているうえに、主演俳優の演技が大根すぎて頭に入ってこない。事前にレビューでも見ておけばよかった。楽しみにしていたのに残念だ。  飽きてくると、余計なことを考えてしまう。高松を煽って遊んでみたくなったのだ。  それにしてもどうやって煽ってやろうか。可愛く(?)甘えてみる、キザな言い回しをする、素直に気持ちを伝えてみるとか、色々あるだろう。俺だって羞恥心くらいあるから、恥ずかしいと思うこともあるけれど、高松が喜んだり、あたふたしているのを見ると嬉しいから言ってみたくもなる。  ちらりと横目で高松を盗み見る。隣で頬杖をついてテレビ画面を見つめている。無表情で、退屈そうにしていた。高松もこの映画をつまらないと思っているのだろう。 「なあ、健太郎」  身を寄せて、不意に名前で呼んでみる。  付き合ってからそれなりに経つが、俺たちはいつも名字で呼びあっている。慣れているから今さら変える気にならないし、恥ずかしいから避けている。高松だって名前で呼ばれれば嬉しいのだと分かってはいるが。  浮き足立っていることを隠し、高松の表情を窺う。 「どうしたんですか、浩之さん」  いつものように笑顔で返されてしまった。おそらく喜んでいる、それしか分からない。高松には何も効いてないようだ。 「いや、なんでもない。呼んでみただけ」  むしろ俺の方が恥ずかしくなってしまった。セックスの時にもっと恥ずかしい言葉を言っているはずなのに、何故耐えられないのだろう。  恐らく本人にその気はないのだろうが、飄々と躱されてしまい悔しい。このまま終われるかよ。 「……やっぱり、キスしたい」  出来るだけ目を合わせるようにして、高松をじっと見つめる。それだけで俺の胸が高鳴ってしまった。 「うん、キスしよ」  高松が優しく微笑む。軽く口付けられた。  その短いキスだけで恋しくなってしまって、自分からも唇を重ねた。  手を重ねて、自然に指を絡ませる。高松は少し驚いた顔をしたが、絡めた手を握り返してきた。それがとても愛しくて仕方がない。 「今日はいつになく甘えたですね、可愛い」 「可愛くはない……」  思わず目を細める。  高松は俺を可愛いと言うけれど、本気で可愛いと思っているのだろうか。こんなおっさんが可愛いわけがないのにと、訝しげに眉を顰めてしまう。 「高松はこういうことするの好き?」 「大好き。むしろ、もっと甘えてくれてもいいんですよ」 「もっと甘える……」  高松にとってこのくらいはなんでもないのだろうか。こちとら上手い甘え方、いや、煽り方が分からなくて困っているというのに。 「ふふ……おいで」  少し笑われてしまったから、よほど渋い顔をしていたのだろう。優しく微笑む顔を直視出来ず、視線を落とすと、高松は空いた手で膝をぽんぽんと叩いていた。 「膝枕する?」  言葉には出来なかったけれど、満更でもなかった。  高松にゆっくりもたれかかる。後頭部を高松の太ももに載せた。自然と、視線がかち合う。  少し固くて膝枕には向いていないが、高松だから心地良いとさえ感じてしまう。 「映画見なくていいの?」  面白くもないし、映画なんてどうでもよくなっていた。 「……もういい」  手を伸ばして高松の頬に触れる。すりすりとさすると、高松は目を閉じた。  ゆっくりと時間が流れる。映画の音はもう耳に入っていなかった。  何気ない一時が幸せだ。こんな時間がずっと続けばいいのにと思う。 「尾上さん。好きだよ」  そう言って高松は俺の頭を撫で、毛先をクルクルと弄んでいる。頭を触られるのは、気持ちがいいから嫌いじゃない。 「俺も、高松のこと好き」  太ももから体温が伝わってくる。温かくて心地よくて、ついウトウトしてしまう。ひとつ欠伸が出てしまった。 「ねむい……」 「じゃあ、そろそろ寝ますか」  高松がテレビの電源を落とす。そして、俺の頬をするりと撫でた。その手をいたずらに捕まえて、頬ずりした。 「なあ、高松」 「なんですか?」 「……今日は一緒に寝るぞ」  高松は驚いた顔をしていた。普段は一緒に寝ないから驚いているのだろう。 「今日はほんとに甘えたがりですね。可愛いなあ」  膝の上で寝てしまわないように、半分寝ている頭で起き上がる。寝る準備をして早く寝てしまおう。  ベッドと布団の間に身体を滑り込ませる。高松は先に横になっていた。  触れ合うかどうかギリギリまで身体を寄せると、高松は俺の肩を抱いた。妙に緊張してしまう。  引き寄せられて、唇を奪われる。俺の息を奪うような長いキスだ。それなのにいやらしくはない。酸素が少なくなり、頭がぼんやりとしてくるのが気持ちいい。  ゆっくりと唇が離れていくのにもどかしさを感じた。 「高松。もっと」 「もっとって、どのくらい?」 「ん……とりあえず触りたい」  高松の胸元に顔を埋めた。寝間着から見えている鎖骨の辺りに唇を寄せる。少し強めに吸い付いて、赤い跡をつけた。 「尾上さんがそんなの付けるなんて、珍しいですね」 「マーキング。誰にもとられたくないし……」  高松は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んでいた。 「大丈夫。俺はどこにもいかないから」  高松が言うなら、きっとそうなんだろう。  例えその約束が破られたとしても、俺は何も出来ない。悲しいし辛いとは思うけど、どうしようもない。そう分かっているからこそ、俺は高松の心を引き寄せて掴んで、誰にも渡さないようにしておきたい。高松が他所にうつつを抜かさないように、骨抜きにしてやるのだ。  高松の手を取って人差し指を軽く口に含んだ。 「ちょっと! 尾上さんっ……?」  手首を強めに握り、指を根元まで咥え込むと、舌を絡めていく。根元から指先までゆっくりと舌を這わせ、高松の表情をうかがった。 「どこでこんなの覚えてきたんですか……!」 「こういうのがエロいって聞いて」  わざと水音をたてて抜き差ししてやると、高松は身震いした。心なしか頬が少し赤い。  歯を立てると、小さく声を漏らした。 「これ以上はダメ……」 「したくなった?」 「正直めちゃくちゃ興奮しました。もう止められなくなっちゃうから、ダメ」  息が荒くなっていた。高松は込み上げる欲求を抑えようと辛そうな顔をしている。  明日は仕事なのにと、そんな困った顔をして言われると、俺だってしてやりたくなってしまう。 「口でしてやる。挿れなきゃいいだろ?」  布団をひん剥いて、仰向けにさせ足を開く。半ば強引に寝巻きのズボンごとパンツをずり下ろしてやった。慌てている彼を無視して、少し大きくなったペニスをゆるゆると刺激する。咥えやすいように、それなりの硬さまでは手で扱いた。 「尾上さんっ……」  切なげな瞳で見つめてくるものだから、大口を開けて一気に根元まで飲み込んだ。喉につかえる感覚は好きではないが、深く咥えると高松が喜んでくれるから頑張ってしまう。自然と唾液が溢れ、口から漏れて高松の下腹部を濡らしている。 「ん、無理しないでいいのに」  その言葉で、むしろムキになってしまう。目を瞑ってえずきながら、出来る範囲でストロークを続ける。  少しだけ頑張ってみたが、頭を振っていたせいかすぐに疲れてしまった。見栄を張っても下手なことに変わりはないのに。  お言葉に甘えて先っぽの方を攻めることにする。このままだと苦しくなってしまいそうだ。  裏筋を吸うように舐め上げて、カリを唇ですくい上げるように責める。先走りを音を立てて吸い上げ、先っぽに舌をねじ込んで少しだけ侵入すると、高松の反応が良くなった。 「んん……気持ちいい」  竿の根元を握っていた手をゆっくりと動かす。時々睾丸をやんわり揉んでみた。 「尾上さん、こっち向いて」  目線だけを高松の方へ寄越した。口の中で高松のものが小さく反応した。 「そのまま口すぼめて」  言われるまま口をすぼめて、ゆっくりとストロークする。出来るだけ舌で裏筋も舐めるようにした。このままイかせたかったから、少し頑張ってみる。 「気持ちいいよ」  じゅぶじゅぶといやらしい水音が耳につく。  チラチラと高松の方を見ては反応を確認していた。  気持ちいいんだろうが、イきそうかと言われるとそんなことはなさそうだ。  うーん、やっぱり俺は下手なんだろうか。 「尾上さんもチンポだして」  高松は目を細め、深く息を吐いた。  一瞬息が詰まる。俺は高松の瞳の奥に隠しきれない欲を見てしまった。もしかして、我慢していたのだろうか。  言われるがままパンツを下ろすと、既に勃ちあがったペニスが顔を出す。高松は起き上がってニヤついていた。 「触ってないのにこんなになっちゃうんですね。俺の舐めてて興奮した?」  高松お得意の辱めだ。 「……したよ、悪いか」 「ううん。やらしくて可愛い」  高松は俺に向き合って座り直すと、俺のペニスごと掴んで扱き始めた。亀頭が擦れて、先走りでぬるぬるして気持ちいい。 「たかまつだめだ、これ……気持ちいい」  視覚的にも刺激が強くて、とにかく興奮する。ペニス同士がぴったりくっついて、いやらしい水音を立てている。 「ん……尾上さん」 「たかまつ、すき……♡」  愛しくて、好きだと口から漏れてしまう。 「俺も好きだよ」  高松の背中に手を回して、何度も優しくキスをした。唇に吸い付いて、舌先でなぞる。高松も舌を差し入れてきたから、絡めて吸い付いた。お互いの息が浅くなっているのが分かった。 「は、きもちいー……イきそ」  ペニスを扱く手が早くなる。気持ちよくて、イきたくて仕方がない。きっと高松もそうなんだろう。 「我慢、できないや。ん……あー……ッ、尾上さんっ……」 「俺もイく……んンっ……!」  ほとんど同じタイミングで射精していた。お互いの精液が混ざり合う様は、あまり見ることのない淫靡な光景で、どうしても恥ずかしくなって顔を逸らしてしまう。ティッシュを探すフリをしながら、しばらくの間、視線を外していた。 「尾上さんってもしかして……は、発情期ですか?」  後処理を終えた高松が真面目な顔をしてそんなことを聞いてくるものだから、素っ頓狂な声をあげてしまった。 「は、ハア? そんなもんあるわけないだろ」  野生の動物じゃあるまいし、人間に発情期なんてあるわけがない。 「自覚ないかもしれませんけど、今日の尾上さんすごい可愛いしなんか……その、エッチだったんですよね」  思わず口角が上がってしまう。  どうやらちゃんと煽れていたらしい。それなら俺も満足だ。 「そのニヤケ顔……さては、また何か企んでたんですね?」 「いや、何の話だ?」 「とぼけても無駄ですよ。指フェラもボディタッチが多かったのも、俺を煽ってたんですね?」  高松は本当に俺のことをよく分かっている。 「煽ってない。今日はそういう気分だっただけ」  また余計なことを言って、返り討ちにあいたくはない。どんなことをされるか分からないのだ。 「ふーん? それなら良いんですけど。本当に煽ってるんだったら、どうしてあげようかなって考えてたところです」 「……ちなみに聞くけど、俺はどうなる予定だったんだ?」 「声も枯れるくらい抱き潰してたかもしれないです。まあ、尾上さんにはご褒美ですけどね」  想像して、それも悪くないかもと思ってしまった。今度は時間のある日にしてみても良いかななんて。 「……そんなことない」  目線を逸らしてぶっきらぼうに返事をする。形だけでも否定しておかないと、何をされるか分からないからだ。 「ふふ。本当に尾上さんって嘘つけないですよね。また来週、ゆっくりセックスしましょうね」  

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