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第9話:尾上浩之の誕生日

   十月の初めともなれば夏の暑さも落ち着いて、涼しさを感じられるようになった。もうすっかり秋だ。  11月3日、尾上さんの誕生日が近づいている。  尾上さんは今年の俺の誕生日に、俺が一番喜ぶプレゼントをくれた。恥を忍んで「プレゼントは俺!」と言ってくれた恋人に応えないわけにはいかないだろう。ぜひ尾上さんの喜ぶようなお返しをしてあげたい。一ヶ月もあれば、ちゃんとした物は用意出来るだろうから。  事前のリサーチは大事だ。サプライズではなくなるが、こういうのは本人に聞くのが手っ取り早い。  しかし、今の尾上さんは一人でゲームに熱中している。一旦集中すると、尾上さんはあまり俺にかまってくれなくなるから、区切りのいいところまでは俺も大人しく隣に座って、しばらく尾上さんのゲームプレイを見ているのだ。 「あー……あとちょっとなのになあ」  尾上さんは先ほどから同じところで残基を減らしている。どうにも根を詰めているようだ。 「息抜きしたらどうですか? コーヒーもってきますよ」 「ありがとう。頼む」  コーヒーメーカーに水を入れてスイッチを入れる。出来上がりまではしばらくかかりそうだ。  尾上さんは両腕を伸ばしてから、肩を回し、頭をぐるぐると回している。 「それ、昔から難しいって言われてるゲームですよね? 尾上さんってゲーム上手いよね」 「そうでもないよ。何回も練習したから上手くなっただけだ」  簡単そうに言うが、尾上さんのゲームセンスと集中力は本当にすごい。 「コーヒーに甘いのいります?」 「あー。欲しいかな」  尾上さんのコーヒーにはフレッシュと少しの砂糖を入れた。俺はブラック。 「……そういえば、尾上さん。誕生日プレゼントに欲しいものありますか?」  尾上さんは腕を組んで考え始めた。眉間に皺を寄せ、意味もなく右上を見ながらうんうん唸っている。 「んー……欲しいものか、なんだろうなあ。スロットの実機とか?」  呆気にとられてしまった。尾上さんらしいと言えばらしいけど、誕生日プレゼントらしくはない。  尾上さんは物欲が強い方だ。普段から、欲しい物は片っ端から買っているみたいだし、欲しい物を自分で買えてしまう。だから、なかなか俺の出番はない。 「他にないんですか……」 「うーん? 特にない」 「ええ……」  プレゼントは独りよがりではいけない。尾上さんの欲しい物をプレゼントするのが一番だと分かってはいるけれど、スロットの実機じゃ、あまりにも特別感がないだろう。  俺はあまりにも困った顔をしていたのか、尾上さんが申し訳なさそうに見つめてくる。 「そんな捨てられた子犬みたいな顔するなよ。……そうだ、アレだよアレ! マッサージのやつ欲しい」 「それって電マ」 「馬鹿。寝言は寝て言え」  尾上さんが俺に気を使っているような気がして、申し訳ないと思ったから少しふざけてしまった。 「本当ですか……?」 「本当だって、本当! 最近腰が酷くてさ、あったら嬉しいかな。でも、ホントの本当はその……デートに行きたいんだ」 「デートですか?」  交際してからというもの、デートくらい何回もしているのに、尾上さんはやけにソワソワしている。 「そう。いつかのデートのリベンジマッチだ」  初めてデートをした日は、雪の降る冬の日だったと思う。  余裕なんて無かったし、服だってその時の一張羅だ。喫茶店で腹がパンパンになるまで食べてしまったし、41にもなってスマートとは程遠いエスコートをしてしまったと思う。  それもこれも尾上さんのことが好きだから。だから、浮かれてしまうし、目の前のことで頭がいっぱいになってしまうんだと。  人のせいにするなと怒ってみせて、尾上さんは笑ってくれるだろうか。  きっと少しは変わったのだろう、俺も尾上さんも。 「荷物になるものは後回しにして、今から映画見るぞ」  見たい映画があると、前日に尾上さんから聞かされていた。タイトルは今まで秘密にされている。初めてのデートはミステリー映画を見たけれど、今日は何を見るんだろう。  大型ショッピングモールの映画館に入り、尾上さんは俺の分までチケットを発券している。片方を受け取り見てみると、『デッド・ショー』……? 「……もしかしてホラー映画ですか?」  聞いたことのない映画だった。タイトルから内容は推し量れないけれど、壁に貼られたポスターからはおどろおどろしい雰囲気を感じる。  ただ、尾上さんはホラーが苦手だったはずだ。  「43になったし、新しいことしてみてもいいかなって思ったんだよ」  驚きはしたけれど、少し嬉しくもあった。ちょっと頑固なところもあるこの人が、新しいことをしようと言うのだから、そりゃあもう応援したくなる。 「言うてそんなに怖くもないだろ」  尾上さんは得意げな顔をして、フード売り場に行ってしまった。  尾上さんがわざわざ予約してくれたちょっと良いシートに座って、暗闇で手を繋いだ。  映画自体は大して怖くもない、よくあるゾンビ映画だった。ジャンプスケアが多いから、尾上さんが一番苦手なジャンルだろう。  自分で見たいって言ったくせに、めちゃくちゃ怖がっている。ずっと俺の手を握っているし、なにかビックリする演出が入ると、握る手に力が入る。  初めてのデートで映画を見た時は、俺の方から手を握っていたし、尾上さんだって照れていたのに。  可愛いらしいなあ。強がってはいたけれど、やっぱり怖いんだな。どんな心境の変化があったのかは分からないけれど、尾上さんが知らない世界に歩み寄ろうとしているのは分かるのだ。   「別に怖くなかったな」  こんなに分かりやすい嘘つく人いるんだなあ。 「確かに、ビックリするだけでしたね」 「そうそう! 子供じゃないんだから怖くないわ」   あまり突っ込むとムキになりそうだから、出来るだけ話を逸らしてあげる。明らかに強がって饒舌になっている尾上さんを連れて映画館を出た。  ショッピングモールはあまりに広くて、途中で色んな店に目移りしてしまう。ペットショップの猫に目を奪われている尾上さんを引き剥がして、家電量販店に入った。  尾上さんは並んだマッサージチェアに座り、リモコンのスイッチを入れて目を閉じた。俺たちは元々マッサージ用品を求めてやって来たのだ。 「あ〜……気持ちいい。これ欲しい」  尾上さんが座るマッサージチェアは見るからに良い物だ。値段を確認せずとも明らかに高いと分かってはいたが、桁が一つ違った。 「さすがに予算オーバーですね……」 「まあそうだろうな」  尾上さんはマッサージチェアから降りた。  あらかじめ下調べはしていて、シートタイプのマッサージ機にしようと話はしていた。  寝ながらでも使える物が良い、温かくなる機能が欲しいと相談しながら良さげなものを選んだ。  普段の生活に使うものを、恋人と二人で買いに来る。前よりも一歩進んだ関係になれたんだとそう思えた。 「いやー! いい休日って感じ……」  映画を見て、それから色んな所を見て回ったから、適度に疲れている。  尾上さんのバースデーケーキも好きな食べ物も買えたし、充実した誕生日デートになっただろう。あとは家に帰って夕飯を食べて、ゆっくり出来たら完璧だ。  車に荷物を積んで、運転席に座った。 「あ、もういい時間だ。俺お腹空いちゃったな! 帰ってご飯作らなきゃですね」 「うん……高松、こっち向いて」  言われるがまま助手席の方に身体を捻ると、目を瞑った尾上さんの顔が目の前に。端っことはいえ、まだショッピングモールの駐車場で尾上さんと唇を重ねていた。 「こんなところで、いいんですか」 「別に見られたところで何も減るもんじゃない。今したいと思ったから、しただけだ」  尾上さんは俺をからかうように笑った。 「俺だって、プレゼントに高松が欲しいんだ」 「えっ……それって」  尾上さんは俺の首の後ろに腕を通して、俺を引き寄せた。 「だから、お前が欲しいんだってば」  一瞬だけ固まってしまったけれど、その意味を理解した瞬間、身体が沸騰するように熱を持つ。  尾上さんは狼狽える俺を見て、目を細めていたずらっぽく笑う。いつもより余裕のある、妙に色っぽい表情に俺は引き込まれてしまった。 「もう一回言ってやろうか? 聞こえてるだろうけど……」 「き、聞こえました!」  聞き間違いでも勘違いでもない。  尾上さんの気が変わる前に早く帰らなきゃダメだ。もう俺は爆発寸前で、我慢なんかできそうにない。  家の中に入るやいなや、荷物も玄関に放り出し、尾上さんを壁に押し付けた。無理矢理口付けて、何度も角度を変え、少し硬くカサついた唇を貪る。  尾上さんから舌を絡め取られた。背中に回った腕に力が入るのが分かる。  口から漏れた涎は滴って落ち、我慢していた欲が堰を切ったように溢れている。気づけば夢中で尾上さんを求めていた。  尾上さんの顔は朱に染まっていた。上目遣いで目を細めて、少しだけ視線を外している。濡れた唇がやけに色っぽかった。 「尾上さんごめん、優しくできないかも」  気持ち強めに抱きしめて、薄い肉のついた尻に手を伸ばす。揉みしだいていると、尾上さんは声を殺して浅く息を吐いた。  俺は尾上さんにどうしようもなく欲情している。誕生日に俺を求めてくれる恋人なんて、可愛いに決まってるんだから仕方がない。 「優しくなんてしなくていいから、早くベッド行こう」  尾上さんは顔を隠すように俺の肩口に顔を埋め、首筋にそっとキスを落とした。 「健太郎が欲しい。……ダメ?」 「ああッ♡あ♡……イく、ッ……んっ、ん゙〜ッ♡♡」  透明な液体がペニスから勢いよく吹き出して、尾上さんの腹を濡らしていた。 「はは……もうイったんですか?」  尾上さんは自ら両足を持ち上げ、身体を痙攣させ、浅い息を吐きながら小さく喘いでいる。浅く抽挿を繰り返し、尾上さんの好きなところをいじめてやると、あっという間に達してしまったらしい。アナルの入口がひくひくと震え、ナカがうねって締め付けられる度に俺も身体が震えてしまう。 「うぅ……う、んっ……ひぃ」  悲鳴のような声をあげ、尾上さんはすでに半泣きになっている。いつもならちょっと待ってとストップがかかるところだが──。 「も、もっと」  尾上さんは俺に向けて手を伸ばしていた。  細めた眼から覗く瞳は揺れている。俺は大人しく抱き止められ、その熱い誘惑に身を委ねた。 「けんたろう」  いつもより高くて甘ったるい声だ。 「好き」  それだけ言うと、尾上さんは目を伏せた。  吸い込まれるように唇を重ねる。尾上さんの唇はいつも甘い気がしてしまう。だって、何度も吸い付いて舐めて味わいたくなってしまうんだから。  ──俺も好きだよ。  口には出さず、腰を押し進めて尾上さんの奥までペニスを差し込んだ。そのままジッとしていると、尾上さんは待ちきれないのか身体をビクつかせている。腰を動かして、自分で気持ちのいいところに当てては控えめに喘いでいる。 「また、俺でオナニーするんだから」 「しょうがないだろっ……動いて」 「ふふ、そんなに俺の欲しい?」 「……ほ、欲しいに決まってんだろうが」  恥ずかしいのか、尾上さんは顔を逸らしている。正直で可愛いらしい。 「ほら、はやく」  ナカを思い切り締められ、身震いしてしまった。急かされるように律動を再開する。  尾上さんに覆いかぶさって、首筋に齧り付く。くっきりと残った歯型に吸い付いて、なぞるように舐めあげた。 「いっ……ん゙っ、んぅ……♡」 「きもちいい?」 「きもち、いい♡い゙っ♡あ゙っ……♡あ〜ッ♡♡……すき、すき♡」  可愛い。すきだと啼く尾上さんが好きだ。 「きもちいいのが好きなの?」 「ちがっ……う、けんたろうが、すき」  何度でも心を奪われてしまう。甘えたように、時には悲鳴のように自分の名前を呼ばれると、どうしようもなく興奮して、正気ではいられなくなる。 「ん゙っ♡んぅ♡♡イっ……く、イク……からぁ♡もぅ、ダメ……!!」  尾上さんはビクビクと身体を震わせ、勃ち上がったペニスからボタボタと白い液体を吐き出した。 「ごめん、俺もッ……イく……!」  最奥で射精して深く息を吐いた。何度か軽く押し付けてから、ずるりとペニスを引き抜いた。  荒い息を整えながら、いつもより多く精液が溜まったコンドームを結んでゴミ箱に捨てた。 「身体大丈夫ですか?」  尾上さんは肩で荒く息をしながら、なにかボソリと呟いた。俺は全く聞き取れず、聞き返そうとしたところ、背中に足を絡められて強い力で引っ張られた。 「ど、どうしたんですか」  尾上さんは何も言わず、俺に向かって両手を広げている。……甘えたいのだろうか、可愛いな。 「けんたろう」  尾上さんは囁くように俺を呼ぶ。首の後ろに腕を通して、顔を近づけ、甘く──。 「ゔっ!?」  尾上さんはいつの間にか下腹部に手を伸ばし、俺のペニスを握っていた。俺はもう驚いて、思わず声を出してしまったが、それだけに留まらない。愛しい恋人が、自ら足を広げて、握った俺のペニスをぽっかり開いた穴にピッタリとあてがっているのだ。 「もっかいしよ……ナマでいいから」  穴の入口がヒクついている。このいやらしい穴は俺のちんぽを求めている。ここに挿れなければ、俺は──。  頭に血が上って沸騰している。耳元で煽るように囁かれて、落ちない男などいるのだろうか。 「……エロすぎ」  何度か扱けば、萎んだペニスはあっという間に勃ち上がる。いまだナカはヌルついていて、奥までねじ込むのに苦労はなかった。  俺はもう夢中で腰を振り続けていた。途中でバックに体位を変えて、尾上さんの身体を貪る。もう勢いだけのセックスだ。いつもはしない後背位で、奥までペニスを突き上げていると、まるで獣の交尾のようだと思う。 「あ゙あっ♡……あ♡あ゙ッ♡……ううっ……ん」  柔い肉が絡みついてくる。とろけそうなくらいアツく、持っていかれそうなほど強い締めつけを直に感じられる。 「ん゙んッ♡ん〜ッ♡けんたろっ……♡けんたろう♡♡」 「ね……ここ、越えていい?」  ちょんちょんと奥をペニスでつついてやると、尾上さんが息を呑んだ。ここは快楽の栓だ。この先にこれを挿れるとどうなるか、尾上さんはよく知っている。 「ダメかな」 「……いい、よ」  抱えた枕をギュッと握りしめて、消え入りそうな声で尾上さんは呟く。  もう俺に枷はなかった。尾上さんの腰をがっちり掴んで、今まで突っかかっていたその先へ、勢いだけで越えていく。 「ん゙んッ! ん〜ッ♡♡……うっ……んッ!」  尾上さんはもはや呻き声のような嬌声を噛み殺していた。 「挿れただけでイっちゃった?」  尾上さんのペニスはやんわりと勃ち上がり、透明な液体が力無く滴ってシーツを濡らしていた。返事もせず、肩を震わせて必死に耐えるので精一杯のようだ。 「いっぱい気持ちよくなってよ」 「うう……ゔっ♡あ……あ゙っ♡♡あ♡だめッ……だめ……やだぁ」  尾上さんはシーツを強く握りしめ、顔を枕に押し付けている。きっと、目をぎゅっと閉じて真っ赤な顔をしているんだろう。 「うそつき」  気持ちよくて仕方がないくせに、口では嫌だと言う。可愛らしい顔は見られないが、俺のペニスを奥の奥まで咥えこんでいるところは丸見えだ。本当に、本当に、興奮する。 「む゙、むりぃ♡こんな、の゙ッ♡あたま……ぁ♡おかしゔ、なる……♡♡」 「おかしくなっていいよ。えっちでかわいいね」  尾上さんのつま先には力が入っている。背中も反り返ってきて、イきたくてたまらないのだろう。 「……浩之。ナカに出していい?」 「やだっ……あ♡あ゙っ♡♡ナカ、だめッ♡ん゙〜ッ♡♡」 「ほんとは?」  俺は動きをピタリと止めた。  尾上さんが深く息をする音が聞こえる。身体もナカもビクビク震えている。 「答えないと動かないよ?」  尾上さんは待ちきれないのかゆるゆると動いて小さく喘いでいた。俺のちんぽでオナニーしないで、ってさっき言ったばかりなのに。 「うっ……うン♡だめじゃ、ない……」  尾上さんは観念したように何度か頷いていた。羞恥で枕に顔を押し付けているのか、くぐもった声が聞こえる。 「ごめんね、聞こえませんでした」 「や……ウソ、つき。んんぅ……♡なか、ナカに、出していい……から、早くッ……! けんたろ……♡」  身を捩ってこちらを振り向いた尾上さんから、掠れた声が聞こえてくる。涙目でそう訴えてくるから、俺はもう爆発しそうだった。ペニスがピクピクと震え、質量を増していく。  大きく一突きすると、尾上さんは一際大きい声を出して喘いでいた。俺はもう、ひたすら自分の欲求のためだけに動いていた。 「あー……かわいい、ほんとに好き。好きだよ、浩之」  尾上さんのアナルは完全に性器だ。いやらしい水音をたてて、出し入れするところを見ていると、どうしようもなく興奮してしまう。  ひたすら快楽だけを求め、何度もピストンを繰り返す。頭の中は真っ白で本能に突き動かされていた。 「ンっ、もうイく……出すね、ナカに出すよッ……!」  尾上さんの奥の奥までペニスを打ち付けた。こみ上げる射精感に身震いする。ペニスからはどくどくと精液が溢れていた。 「ン゙〜っ♡……あ♡……出てるっ」 「まずい……身体が痛すぎる」  思い切り喘いでいたからか、尾上さんは声が枯れてしまっていた。 「ごめんなさい! ちょっとやり過ぎました」 「流石に今日は俺が悪いよ。散々煽ったんだから。マッサージシート買っといて良かったな」  尾上さんはやっとこさベッドに腰掛けて、背中と腰をさすっては辺りを見回している。 「あー……ごめん。タバコ、ズボンのポケットだわ」  床に脱ぎ捨てられたズボンのポケットから、尾上さんのタバコとライターを探して渡した。  尾上さんはいつものようにタバコに火をつけた。 「はー、今日の尾上さんめっちゃエロかったな……」  気だるそうに一服する尾上さんを見ていると、馬鹿みたいな呟きが意図せず漏れてしまった。 「そんなに良かったんだな」 「本当に良かったです。最高でした!」  尾上さんはふふと小さく声に出して笑った。いつになく上機嫌だ。 「でもこれじゃ、俺がまたプレゼント貰っちゃって、誰の誕生日か分からないですね」  俺はいつだって貰ってばかりだ。優しさも愛情も持て余しているし、あまり返せてもいない。  尾上さんは煙をゆっくりと吐き出して、しばらく黙った後、口を開いた。 「ううん。俺はいっぱい貰ったよ。楽しかったし、嬉しかったし……気持ちよかったし。お前が嬉しいと俺も嬉しいんだぞ。そもそも……俺はいつも貰いすぎなんだ」  タバコの煙がゆらゆら揺れている。  言いたいことがあったのに、細くて長い指に見とれている。薄くカサついた唇が結ばれ、口角が上がるのを見て、俺は思う。  やっぱり、この人は綺麗だ。 「いつもありがとう、高松。俺はお前のおかげで毎日楽しいよ」  尾上さんは今日で一つ年をとった。  色んなことを経験してここまで来たんだろう。悲しいことも嬉しいこともいっぱいあっただろうし、その経験の全てが43歳の尾上さんを形作っている。  俺は『尾上浩之』という魅力的な人間に惹かれて、もっともっと尾上さんを好きになっていくんだろうなあ。 「こちらこそ。いつも一緒にいてくれて……出会ってくれて、生まれてきてくれてありがとう。  誕生日おめでとう、尾上さん」

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