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太くて長い棒状の食べ物を必死に咥える尾上さんは高松にエロい目で見られている
会社を出ると、手にしていたスマホから通知音が鳴る。確認すると高松からのLINEだった。
今日は二月二日。今年は三日ではなく二日が節分の日らしい。鬼に豆をまき、恵方巻きを食べる日だと一般的には言われている。太巻きじゃなくて恵方巻きだ。
『スーパーの恵方巻き買いました!』
先に退社した高松がスーパーで夕飯の買い出しをしてくれた。送られてきたのは、半額シールが貼られた恵方巻きの写真。高松はお祭り男のイメージ通りイベント事が好きなタイプで、例に漏れず節分にも乗っかっていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。恵方巻き買ってきました!」
ダイニングテーブルには、写真で見たよりも気持ち大きめの恵方巻きが鎮座していた。かんぴょう、玉子等が入ったオーソドックスな物はもちろん、エビフライや焼肉が入った太巻きもある。最近は何でもありなんだなと思って、商魂たくましい地元のスーパーに感心するばかりだ。
腹も減っていたので、さっさと部屋着に着替えて食卓に着く。
「今年は西南西らしいですよ」
スマホのコンパスアプリで西南西の方角を調べた。絶対に一息では食べきれない長さの恵方巻きを手に取って口元に運んだ。高松は期待の眼差しでこちらを見つめていて、妙なプレッシャーを感じた。
大きめに口を開けて一口、ぱくり。海苔が噛み切りにくく食べるのに苦労したが、確かに美味しい。しかし、思ったより大きく口も離さずこのまま食べ続けていたら、息が苦しくなってしまいそうだった。
「んっ……ふ」
やっとの思いで食べ続けていると、やたらニヤニヤした高松と目が合う。食べるのに必死なのもあって、何故なのかはよく分からなかったのだが「おっきい? くるしい?」といった、どこか聞き覚えのあるフレーズにやたらねっとりとした言い方で、なるほどこいつ下心しかないなと気づいてしまった。
「美味しいですか?」
「んんー」
こんな太いものを食べながら喋れるわけがない。変に意識させられてしまったのか、口から漏れる吐息で余計なことを思い出してしまう。たかだか恵方巻き食ってるだけなのに、なんでこんな目にあうんだ。
「んー! はっ……」
半分くらい食べたあたりで口を離してしまった。
「食べきらないとダメじゃないですか」
高松がつまらなさそうに言うから、じゃあお前も食べてみろよと言いたくなる。
「でも、太くて咥えるの大変だもんね?」
ニヤニヤしながら聞いてくるし、お前ただのセクハラエロ親父じゃねーか!
「……言っとくけど、お前のより太いからな」
「どういう意味ですか!?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だよ」
高松は驚いたように瞬きを繰り返していた。
少しでも意趣返しになっただろうか。行事に便乗して、いやらしい事ばっかり考えてる奴の思い通りになんて、なってやるか!
「お前のなんか楽勝だよ」
ドヤ顔で余裕の笑みを浮かべる。本当は楽勝ではないし、きっとそんなこともバレているけれど。
「はー……言いましたね?」
「おう。男に二言は無い」
太巻きでもフランクフルトでもバナナでもなんでも来やがれ。全部食ってやる。
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