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第19話┋ひとつ屋根の下で見つめる君のことをどうしようもなく

 洗濯と掃除は俺の仕事だ。  同棲を始めた際に家事の分担を決めた。俺は絶望的に料理ができないから、高松の負担を減らすためにもそれ以外はやると決めている。  洗濯と掃除なら(一人暮らしをしていたこともあるし)慣れたものだ。変に潔癖な自覚はあるし、掃除は特にかかさなかった。 「あぶねー……千円札洗濯するところだった」  ズボンのポケットから千円札が出てきた。面倒くさがってお釣りをポケットに突っ込むものだから、度々お金を洗ってしまう。硬貨ならまだマシで、洗濯槽からくしゃくしゃになったお札を発見した日には、流石に少し落ち込んでしまう。 「ちゃんと財布に入れないとダメですよー!」 「今日はセーフだから!」  洗剤と柔軟剤が入っているのを確認して、洗濯機のスイッチを押した。  日に日に熱くなり始め、梅雨より先に夏の訪れを感じさせるこの頃。エアコンのメンテナンスのついでに、大掃除をしようと思い立ったのだ。  思い返せば、大晦日は高松が実家に顔を出していたし、寒いのに一人で動きたくはないしで簡単にしか掃除していなかった。  大晦日のツケを六ヶ月も経ったあと、ようやく払う羽目になった。   「入りますよ……うわあ、散らかしてるじゃないですか」  今回は断捨離をしている。  高松と付き合ってから一人の時間は圧倒的に少なくなり、物は増える一方だ。元々本やゲームは興味の無くなったものから売りに出していたし、こんな状況になったことがない。とりあえず適当に仕舞っていた物を引っ張り出し、床を埋めるほどに散らかしている。 「空気悪いですよ……」  高松は窓を開け放った。埃っぽい部屋に風が通り、そよ風に吹かれてカーテンが揺れている。西日が差し込んで暖かい。 「まだ途中なんだよ」  中に入ってきた高松は、部屋の隅にとりあえずまとめた本を手に取っていた。 「積み本と積みゲーだらけ……」 「時間足りなくてな」  本当は読みたい本もプレイしたいゲームもたくさんある。でも仕事もあるし、ゲースタにも行きたいし、高松との時間も大切にしたい。一日が24時間では全然足りないのだ。 「これは?」  高松は辺りを物色し始め、机に置いていた箱を指さした。 「それはこの前クレーンで取ったソフビ」  昔から好きなゲームのソフビ人形。ボスモンスターの造形に一目惚れして、その場でクレーンゲームに五百円玉を投入。紆余曲折を経て無事ゲットした。 「じゃあこれは?」 「馬のぬいぐるみ。お前が好きそうだなって思って」  高松はベッドに置いていた競走馬のぬいぐるみを指さしていた。高松は競馬が好きだからと、なんとなく取ったものだ。 「尾上さん無駄遣いしてるでしょ……」 「いらないものは買ってない」  その言葉に嘘偽りはない。買う時は欲しいと思って手に入れるのだから。  ただ、高松に睨まれると縮こまってしまう。金銭面に関しては後ろめたいことしかない。 「先月いくら使ったんですか?」  痛いところを突かれた。高松には内緒にしていたが、先月は酷い浪費をしたのだ。 「新台に打ちたいスロットあったからさ……先月は多かったけど」  スロットだけで十万くらい。それ以外にも出費は多く、高松に知られたら呆れられてしまうだろう。これでも自制した方なのだから恐ろしい。 「その言い方だと結構使ってますね?」 「いや、俺だって貯金したいと思ってるよ。ただ……残らないだけで」  今までまともに貯金というものをしたことがない。固定費さえ確保すれば、あとは好きな物に好きなだけ金をかけていた。結果、金が残ることもある、ただそれだけ。明日は明日の自分がどうにかする。  高松は目を細めて、大きな溜息を吐いた。 「ご、ごめん。ホントにだらしなくて……ごめん」  申し訳ないという気持ちだけは確かにある。信じてもらえないかもしれないが……。  高松はしばらく考え込み、堰を切ったように話し出した。 「尾上さんさえ良ければ、俺が家計の管理してもいいですか」  同棲しようともちかけられた時もこんな感じだったなあと思い出す。情けない話だが、高松は俺の駄目なところを見ても幻滅しないし、全部丸ごと愛してくれているんだなと思う。それが嬉しかった。 「それはむしろ、して欲しいかもしれん……。俺が持ってると絶対使うし」  甘えて何でもやってもらうのは違うと思うけれど、人にはどうしても無理なことがある。素直にそれを認めるのもまた大切なのだと、四十年近く生きたうえでひとつの答えを見つけた気がする。少なくとも俺は、そう思う。 「じゃあ、お小遣い制にする? あはは、なんか夫婦みたいですね! なんて……」  高松と視線がかち合う。一瞬、時が止まったような気がした。窓から吹き込む暖かい風が心地よい。 「もう……結婚する?」  清々しい陽気に包まれて、太陽のように暖かい彼が笑った。  ***  尾上さんの断捨離はまあまあ時間がかかった。読んだ本やゲームはダンボールにまとめて、後で売りに出す。収納の仕方にちょっとしたこだわりがあるらしく、そこに口は出さなかった。  部屋の掃除も一通り済んだから、コーヒーを入れてダイニングテーブルで一息ついていた。 「それで、さっきの話なんですけど」  俺はおずおずと話を切り出した。 「いや、結婚って言ったって……できないんだから冗談だろ?」  雰囲気に流されて勢いで言ってしまったけれど、考えなくとも俺たちは結婚ができない。そんなことはよく分かっている。 「それに……こんな話して平気なのか?」 「え……平気って、なにが?」 「いや、その……もう辛くないのか。だって、最悪な形で離婚したのに」  ──ああ、そのことか。  たしかに俺は過去に不倫されて、離婚している。  そして、どうしようもなく落ち込んで、ただの友達だった尾上さんに泣きついた。正常な判断はできていなかったと思う。  でもあの日、この人の優しさに触れたことで何かが変わった。俺の人生が変わり始めた。  もし、俺が一人で抱え込んでいたら──少なくとも尾上さんとこうして恋人になっていないと思う。きっとただの友達のままだった。  だから、悪いことばかりでもなかったと思うのだ。 「大丈夫ですよ。俺には尾上さんがついてるんだから」  俺は尾上さんに笑いかける。  俺は今幸せなんだ。  こんなに優しくて素敵な人が隣にいるのに、もう昔のことなんて考えないよ。考えられない。 「これからの話がしたいな」  俺がそう言うと、尾上さんは目を見開いて驚いた後、嬉しそうにはにかんだ。  ありがとう。まるで自分のことのように喜んでくれるこの人が俺は好きなんだ。 「ね、尾上さんは俺とどうしたい? どうなりたい?」  尾上さんは言葉を詰まらせている。それもそうだ、俺と結婚はできないのだから、今まで考えたこともなかったのだろう。きっとこの関係に明確なゴールなんてものはない。 「俺はお前と一緒にいられればそれでいいんだけど」  ずっと一緒にいる、ただそれだけのことが思ったより難しい。だから、人は言葉にして誓うのだろう。  そして俺もまた──その大多数の中の一人だ。  俺はもう流されたり逃げたりしない。たとえ良い人じゃなくても、それでも一人の人間として、自分の言葉でありのままを伝えるために。 「例えば……尾上さんは同じ名字になりたいって思います?」 「いや……特に」 「俺もそんなに、なんですよね」  俺はバツイチだ。だから、一度『結婚』というものを経験している。  独り身になった時、この先の人生で結婚なんてできるんだろうかと思い悩んでしまった。きっと誰かと交際することはあるけれど、生涯添い遂げたいと思える相手はいないのかもしれないと、そう思っていた。 「俺は良くても、お前はそれでも良いのか? 養子縁組するとか、そういう手段もあるけど」 「いいんですよ。だって俺たちの関係は変わらないでしょ? 恋人で友人で……大切な人です。一緒に住んでて家計も一緒で、こんなに大切で仕方がないのに、それでも家族じゃないの?」  結婚はできなくなった。けれど、大切にしたい人はできた。俺たちのことを、俺たちの関係を理解できるのは俺たちだけ。  ──これはささやかな抵抗だ。  『結婚』というものに意味があるのだとしたら、生涯に渡って幸せな関係を築きたいのだと、そう誓うことだと思う。  俺にとって、『結婚』とは『誓い』だったのだと今さら気がついたのだ。 「この先、今とは全然違う未来が広がってるんだから……いつまでも古い考えのままじゃ、おじさんからあっという間におじいさんになっちゃうんだろうな」  人生の折り返しを迎え、残り40年ほどの余生をどう過ごすのかは、自分自身に委ねられている。  これからの人生、まだまだ先は長い。 「俺は尾上さんの一生のパートナーになりたい。ずっと一緒にいてくれますか?」  バラの花束も指輪だってない。それでも面と向かって、眼差しだけは真っ直ぐ向けて──。 「あぁ、もちろん。俺も同じ気持ちだよ」  尾上さんは少し照れくさそうに唇を尖らせていた。  マグカップに口をつける。つい先日、いつもより良いコーヒーを買った。尾上さんがコーヒーをよく飲むからと、理由をつけて購入したが正解だった。いつもと違うもの、ちょっと良いもの。それだけで毎日が少し楽しくなる。 「なんだかんだ言って、今とそんなに変わらないですけどね」  何かができる訳じゃないし、すぐにしたいこともない。今後色んなものが変化して、俺たちの関係だって変わっていくのだろう。先の未来で自由に動けるように、アンテナだけは張っていたいと思う。 「そうなんだけど、指輪とかいらないのか……?」 「ゆ、ゆびわ……?」  鳩が豆鉄砲を食らったら、こんな感じなのだろうか。  尾上さんは刹那的な人で、先のことをあまり考える気がない。どうでもいいこともあまり覚えていない。 「えっ? いや、ほんとに……?」  それ以上にまさか、尾上さんの口から指輪なんて言葉が飛び出すとは思わなかった。アクセサリーにすら興味が無さそうなのに。  そんな人が指輪が欲しいというのだから、俺はもう浮かれていいのだろうか。 「お前いつも形から入るだろ。別に嫌ならいいんだぞ」 「そんなわけない! 嬉しいんですよ!」  あまりに呆けていたから、尾上さんを不安にさせてしまったようだ。嫌なわけがない。むしろ嬉しくて嬉しくて仕方がないのに。 「じゃあ、一緒にお店行かなきゃ……」  指のサイズもちゃんと測ってもらって、二人で一緒に行かなきゃ。  俺を想って、何度も一生懸命に考えて、悩んでくれたこの人を幸せにしたいとそう思った。ううん、幸せにしたいなんて一方的なものじゃなく、俺はこの人と幸せになりたい。 「あ、結婚式挙げます?」 「それは浮かれすぎじゃないか……?」 「きっと、尾上さんタキシード似合いますよ」  白いタキシードを着た尾上さんを想像する。いつもの何倍も凛々しく爽やかで、立派な好青年に見えるのだろう(青年という歳ではないが)。 「そういう凛々しいのはお前の方が似合うだろ。見なくても分かるよ」 「凛々しいって、それは……俺がかっこいいって言ってるんですか?」  少し意地悪な言い方をしてしまうのは俺の悪い癖だ。分かってはいるけれど、やめる気はない。  尾上さんは少しだけ考えて、目を伏せた。 「……かっこいいよ。見た目だけじゃなくて、中身も」  尾上さんは誤魔化すようにテーブル上のタバコに手を伸ばす。  その右手に手のひらを重ねて、驚く尾上さんと目を合わせた。 「我慢して」 「なんで……」 「これからキスするから」  身を乗り出すと、尾上さんは目を瞑って身体を強ばらせた。少し触れるだけのキスをして、鼻の頭にもキスを落とす。それから、掴んだ左手首の薬指に口付けた。  にっこり微笑みかけると、尾上さんは少し不満そうな顔をしたが、これはおそらく照れているのだろう。 「……相変わらずキザなことするな」 「あはは。誓いのキス、先に貰っておきました。やっぱナシはもうダメですからね」 「そんなことするわけないだろ。お前こそ……ずっと一緒にいてくれよ」  乾いてカサカサな、少しかたい唇が触れる。尾上さんはわざとリップ音をたてて、何度も押し付けるように口付けてきた。俺がちろりと舌先を見せても頑なに唇を閉じたままで、すぐに唇は離れていく。 「高松。あのさ……今日一緒に風呂入らない?」 「え……いいんですか。狭いですよ?」  突然の提案に俺は驚いた。  同棲し始めの頃は、しつこいくらいに風呂に誘っては毎度断られていた。だから、一緒に風呂に入ったことなんて数える程しかない。ほとんどがスーパー銭湯だ。さすがに特段広くもない一般宅の湯船に男二人が一緒に入るのは厳しいものがある。狭いから嫌だと断られ続けていたのに。 「狭いしあんま一緒に入れないけど、交代で入ればまあ……なんとかなるだろ。今日はなんか、その、一緒にいたい気分なんだよ!」 「お、尾上さん! 嬉しいです。尾上さんとお風呂……」  銭湯だとイチャイチャできないし、二人だけでお風呂入れるの嬉しいな。尾上さんの背中、流してあげたい。 「言っとくけど、風呂ん中ではヤらないからな」 「別に俺なんも言ってないですよ」 「……顔に出てるよ。スケベ顔」  シャワーで済ませることも多いけれど、湯舟に浸かると気持ちがいいものだ。お湯を熱めに入れたのは正解で、体がポカポカと温かく、日頃の疲れが取れていくようだった。  すると、尾上さんが浴室に入ってきた。 「先に体洗って浸かってます」 「分かった。俺も洗ったら入る」  尾上さんはシャワーのレバーを捻って、椅子に座った。  髪を洗うため目を瞑っているのをいいことに、尾上さんの身体をまじまじと見つめてしまう。もう見慣れてしまったはずなのに、よくよく見るとエロい身体してんなと思う。付き合った頃は痩せぎすで肉もない、言ってしまえば貧相な身体だったのに。ちゃんと健康的な生活を始めてから、尾上さんは少しずつ肉付きがよくなり、今ではお腹が少し出てきた気さえする。まあ、元々少食気味だからあまり太ることもないと思うし、健康になってくれれば一番良い。尻も太腿も大きくて困ることはない。惚れ込んでいるのもあるけれど、綺麗な身体だ。 「手伝いましょうか?」  湯舟から少し身を乗り出して、指先で尾上さんの脇腹をなぞる。尾上さんはびくりと身体を震わせた。 「……なにすんだ」 「ちょっといたずらしただけじゃないですか」  怒られてしまった。余計な言葉を飲み込むようにして口を噤む。 「手つきがやらしい……のぼせるから本当にダメだぞ」  本人にその気がないのは分かっているけれど、上気してほんのり赤く色付いた頬も、ぷっくりとした乳首もいたずらに俺の劣情を刺激する。我慢はできるけど、ちょっと触るだけなら許されないかな。 「変なとこ触ったりしませんよ。背中くらいなら流しますけど、どうしますか?」 「まあ……それくらいなら。滅多にない機会だし頼むわ」  俺は湯舟から上がった。  尾上さんの背後に周り、膝立ちになった。  濡れた髪──滴った雫がうなじを伝っていく。白く細い背中を見ていると、口付けて自分の跡を残したくなる。  いや、いかん。何もしないと言ったんだからそれはダメだ。  煩悩を打ち消すように頭を振り、タオルで肩甲骨のあたりから丁寧に洗っていった。 「痛くないですか?」 「大丈夫」  他人の背中なんて洗わないから新鮮だ。  腰の辺りを洗っていると、薄いなりに肉のついた尻が嫌でも目に入る。バレないよう肌に指を滑らせ、肉を軽く掴む。尾上さんは気にしていないようだ。 「えいっ」  それをいいことに、背後から腕を伸ばしてお腹の肉を触る。ぷにぷにとして可愛らしい。尾上さんは少し気にしているのか、腹に力を入れてお腹を引っ込めた。 「やっぱ太ったよな……?」  脇腹をくすぐってみる。すると力が抜けるので、抱きついてお腹をわし掴んだ。 「これくらいならいいんじゃないですか? 細い方ですよ」 「でも、腹だけ出てるよな? ビール腹なんかなあ……」 「気になるなら俺と一緒に筋トレします? 少しずつ始めれば良いですよ」 「じゃあ、今度ちょっとだけ付き合うわ」  腕に力を入れて抱きしめた。  自分よりも冷たい彼の体温、鼓動の速さ、浴室に響く息の音。裸で密着していると色んなことが伝わってくる。 「高松、いつまでこうしてるんだ」 「もうちょっと……」   バレないようにするすると下腹部に手を伸ばすが、尾上さんもそこまで鈍くはなく、手を叩き落され未遂で終わってしまった。油断も隙もあったものじゃないとぼやかれ、頭からシャワーをぶっかけられた。尾上さんは泡を落として、腕の中をするりと抜けていってしまう。そして何事も無かったかのようにすました顔で湯船に浸かっていた。 「お前も入ったらどうだ」 「尾上さんの意地悪……」  当てつけのように思い切り膨れツラをしたが、尾上さんには見えていないのだろう。ずっとお預けをくらっている。  できるだけつま先からゆっくりと湯船に入った。それでも少しずつお湯は溢れ落ちていく。二人で入るには狭い浴槽に、足をたたみ身体を縮めて向かい合った。 「さっきから隙あらば触ってくるけど……そんなに待てないのか」 「まあ、そうかもしれないですね」  尾上さんは目を細めて俺の顔を見つめている。しばらく睨まれ続けた。 「じゃあ、お前先上がれ。……俺は準備して行くから」 「じゅ、準備ですか!」  動揺してしまう。  普段から声が大きいと言われるのに、風呂場に反響して更にうるさい。でも、急にあんなこと言われて平常心でいられる方がおかしいよ。 「声でっか。今さらそんなに驚くことか? 変だよなあ……お前って」 「いや、だってさあ……」  尾上さんの行動は読めない時があって、度々ドキマギさせられる。俺を驚かせたり、喜ばせたりするのが好きらしい。意外と茶目っ気があるのだ。 「俺だってしたかったよ。でも風呂上がるまで我慢。ほら、あんまり長いとのぼせてできなくなるぞ。出てった、出てった!」 「うわっ」  水飛沫が顔にかかった。  目を開けて尾上さんの方を見ると、握りこんだ両手の隙間から水鉄砲が放たれていた。子供かよ。 「大人しく出て行きますから。尾上さんも、あんまり俺のこと焦らさないでよ!」  捨て台詞を吐いて浴室を出た。  身体を拭いていると、シャワーの音が聞こえてきた。すりガラスを挟んだ向こうで尾上さんが俺に抱かれる準備をしているのだと思うと、とてつもなく興奮してしまう。  ふと、初めて身体を重ねた時のことを思い出していた。  好きなんだと言う彼の、泣きそうな顔を俺は一生忘れない。ずっと、ずっと大事にしたい。

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