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第20話┋マンネリだなんてとんでもない!
太ももをまさぐられ、際どい場所に高松の指先が触れる。目を瞑って口付けを待っても、唇は寂しいままだ。
「尾上さん」
耳元に息を吹き込まれ、反射で身体が震えてしまう。耳たぶにぬるりとした感触があり、そのまま口に含まれたのだと分かった。
「う……んっ」
さっきからリビングのソファで、腰を抱かれてちょっかいをかけられている。テレビでつまらないバラエティ番組を見ていただけで、どこで高松のスイッチが入ったのかはよく分からないが、優しく俺の身体を触ってくる。
「覚えてますか?」
「そりゃ覚えてるけど……さすがにやめないか?」
「えー? 今年も……って約束したじゃないですか」
今日は7月29日──俺の恋人である高松健太郎の誕生日だ。毎年、彼の誕生日に『あるもの』をプレゼントするのが定番になってしまっている。
「そろそろキツイだろ? 俺もう44だぞ?」
「いやいや! 今年も、俺に尾上さんを好きにできる権利くださいよ!」
その『あるもの』とは『俺を好きにできる権利』だ。
今年ですでに三年目になる。一年目は俺を拘束し、二年目は『全身を舐めたい』と言いだしたから、何を言われるのか、今から少し怖いのだ。
「なぁ……エロいことじゃないとダメなのか?」
「エロいことがいいです。というか、俺もう決めてるんですよね」
高松は随分と鼻につくドヤ顔で言い放った。どれだけ楽しみにしてたんだ。
「そんなに身構えないでくださいよ。絶対に痛いことしないし、気持ちいいですから。ね?」
高松は俺と手を重ねた後、顔を覗き込んできた。
「俺は、尾上さんといる時間が一番好き。もう44になっちゃったけど、まだまだ楽しく幸せに生きていきたいんです。きっと尾上さんとなら、これからの人生も幸せだと思うから。……だから、一年で一番幸せなこの日に、尾上さんを俺にください」
なんだかこみ上げるものがあった。
愛おしいものを見るような、高松の優しい微笑みが俺の胸を打つ。そこまでたいそうな告白をされたら、不覚にも感動してしまうだろう。俺だって高松との生活が幸せで、これからも一緒にいたいと思うのだから。
「そこまで言うなら分かったよ。言ってみろ」
晴れ晴れとした気持ちでいた俺は、その時高松という人間を忘れていたのだと思う。だから──
「俺を誘惑してください」
高松の言うことが一瞬よく分からなかったのだ。
「ゆ、ゆうわく……?」
『誘惑』。頭の中で辞書を引く。心を迷わせて、誘い込むこと──?
「なにいってんだ……」
分かりやすい『誘惑』と言えば、胸の谷間を見せつけるとか、スカートから生足をのぞかせるとか……そういうのじゃないのか。俺じゃそんなことできないぞ。
「セックスに誘えって言ってんのか?」
「そんなストレートな……」
高松は苦笑いだ。
「まぁ、間違いではないんですけど……尾上さんはやらしくて可愛いんだってこと、俺に分からせてくれたら満足しますねー」
馬鹿な。やらしいは千歩譲るとして、可愛いはよく分からない。高松の惚れた弱みでそう思うだけで、愛想もないおじさんが可愛いわけがない。どちらかというとお前の方が可愛いだろと思う。
「ふん……俺に女装でもしろって言うのか。絶対嫌だからな、死んでもしないぞ」
「そんなこと言いませんよ。俺はね、積極的な尾上さんが見たいんです! 俺がしたいことばっかりするんじゃなくて」
それはそれでなんというか、痛いところを突かれてしまった。
さすがにマグロではない(と思う)けれど、されるがままになっていることは多い。セックスはコミュニケーションとも言うし、一方的では高松も楽しくないのかもしれない。
──もしかして、高松はマンネリを感じているのだろうか。俺に飽きたのか、愛想をつかしたのか……?
とにかく、どれだけ余裕がなくとも高松にまかせっきりではダメだ。
「……な、なにすればいい?」
「それは尾上さんが考えるんですよ」
「ぐっ……」
いつまでも受け身ではダメだと思ったばかりなのに、手っ取り早い答えを求めてしまう。でも、どうしたらいいんだよ。
腕を組んで、うんうんと唸っても何も出てこない。そのうち高松に笑われてしまったがどうしようもない。
「はあ……準備する間になんか、考えとく」
とりあえず保留にして、俺は風呂場に吸い込まれていった。
俺が先に風呂場から上がって、寝室に全裸で寝転がっていると、シャワーを浴びてきた高松がパンツ一丁で現れた。
「お待たせしました」
高松はそのままベッドに腰かけて、ペットボトルの水を飲んでいる。
「……で、考えはまとまりましたか?」
隣に寝転がった高松が俺の顔を覗き込んできた。挑発するような態度が気に入らなくて、少しだけ目線を逸らす。
「今日はできるだけ俺がするから、寝ててくれ」
後頭部をグッと引き寄せ口づけた。何度か唇を押し付け合った後、下唇を優しく挟み込んで甘噛みする。じゃれ合うようなキスでとりあえず雰囲気作り。俺だってこれくらいはできる。
誘惑しろと言われてもよく分からなかったけれど、積極的なセックスアピールをすればいいんだろう、たぶん。
「高松」
軽く押し倒して高松を仰向けにする。
ボクサーパンツの上に手を這わせ、膨らみに合わせてなぞるとぴくりと反応していた。だんだんと鷲掴むように揉んでいく。
「ん……」
こちらを見つめる熱い視線は、俺を求めていた。
我慢できずに口付けた。今度は舌を入れて絡めあう。唾液が交わる水音、熱い吐息が静かな室内に響いた。
「ね、おがみさん。こっちも触って」
高松は手のひらで自らの胸の辺りを撫でていた。乳首を触れと言うのだろう。
胸の先端を口に含んでみた。立ち上がりかけていた突起を口の中で転がすように愛撫する。
「んっ……っ」
強く吸い上げてときどき噛んでみると、高松は甘い声を漏らしていた。反応が良くて気分が良い。
はち切れんばかりに膨らんだ下着をおろすと、すでに立ちあがった高松のペニスが現れた。質量を増しているそれを手に取り、ゆっくりと上下に擦り始めた。
「っぁ……おがみ、さん」
いつも余裕そうに俺を抱く高松が、情けない声を上げているのを見ると嬉しくて仕方なかった。これからもっとしてやってもいいかなと思う。
だんだん楽しくなってきて、上下に動かす手も早くなっていたらしい。
「ちょっとまって……そんな、早くイかせちゃうの」
「もう一回くらい出るだろ。ほら、俺の手の中に出せ」
高松は焦っているが知ったことではない。手を速めてやると、高松は情けない声を上げながら、あっけなくイってしまった。
「うっ、んん……はぁ……強引すぎ」
「こういうの嫌いか?」
「そういうわけじゃないけど…………あ、ちょっと! ……待っ」
高松のペニスを口に含んで、精液まで綺麗に舐めとった。ふにゃふにゃだろうが知ったことじゃない。
「うぅ……俺の知ってる誘惑ってこんなのじゃない……なんか襲われてるみたい」
しょぼくれているのかと思ったが、『それもいいかも』なんてブツブツ呟いていたから余裕はあるのだろう。
まだ柔らかいペニスも根気よく舐め続けていると、少しずつ硬くなっていく。気づけば口の中に収めるのも難しい大きさになっていた。
「ね、尾上さん。俺も触りたい。お尻こっち向けてよ」
高松はシックスナインをしようと言うが、俺は片手で数える程しか経験がないから少し戸惑ってしまった。
「へ、変なことしないだろうな」
「お尻いじるだけだから大丈夫だよ。ほら、またがって」
恐る恐る四つん這いになり、自分の尻を高松の顔に向けた。
すると、冷たい何かが俺のアナルに触れる。ローションをまとった高松の指先が穴のふちをなぞっていくたびに、腰がゾワゾワして、身体から力が抜けていく。
「あっ……まてっ」
「腰が下がってきてますよ。ほら舐めて」
高松は意地悪ばかり言う。そんなことを言われても集中できないに決まっているだろう。
そのうち指は中に侵入し、二本に増え、ばらばらと動きながら、俺の中を荒らして広げていく。こうも敏感に快感を拾っていては、高松のを舐めてやる余裕もない。
「お、俺がやるって……言った、のにっ……♡」
「反撃しないとは言ってないですよ」
高松の声色は弾んでいた。俺で遊ぶなよ──。
「くっ……せめて、自分で挿れるから」
自分がやると言ったのだ、簡単に反故にしてはいけないだろう。やられてばかりでは癪だというのもあるけれど、これ以上高松に任せていたのでは、『積極的な俺』はプレゼントできない。
「ほんと? 騎乗位久しぶりですね」
ガクガクと震える足を奮い立たせ、仰向けの高松にまたがった。勃ち上がったペニスを掴んでゴムをつけ、自身の入口に宛てがう。
息を吐きながらゆっくり腰を落とした。ペニスの先端が、俺の身体の中にめり込んでいく。少しずつ身体が開かれていく感覚はいつだって少し苦しくて、圧迫感を伴うものだ。
「んっ……っ……」
ある程度まで入ったから、恐る恐る膝を着いた。
「ちょっとだけ待ってくれ……」
「いいですよ」
肩で息をしながら、ふと顔を上げる。眉根を寄せた高松の顔には『待てない』と書いてあった。
「はぁっ……ごめんな。もう、大丈夫だから」
高松の胸に両手を着いて前後に腰を揺らす。不器用だからか、どうしても動き方がぎこちない。高松の反応を見ながら正解を探していた。
「んッ……たかまつ、なぁ……きもちいい、か?」
「きもちいいですよ」
腹に力をこめると、硬くそり立ったペニスが身体の中で脈を打つ。確かに感じてくれているのだ。
「ん゙っ……♡そうか……ぁッ……♡」
高松を気持ちよくさせるはずが、声が出てしまうのは俺の方だった。気持ちいいからそこばかり当ててしまう。
ギリギリまで引き抜いたペニスを勢いよく奥まで収めると──肉と肉がぶつかる音にまじって声にならない悲鳴が漏れる。身体はのけぞり力が入らない。
「ふふ……ちょっとイっちゃったんだ。エロいな~」
俺を見上げる高松の顔はうっとりとしていて、思わず顔が熱くなる。
自分が高松のことも忘れ、一心不乱に腰を振っていたのだと気付いてしまった。それはもう恥ずかしくて仕方がなくて、「俺がいいなんて、ほんと変わってるな」と、思わず余計なことを言ってしまった。
恋愛に疎い俺でも分かる。こういう場であまり水を差すようなことは言うべきでないと。
案の定、しかめ面の高松と目が合った。
「もう……やっぱり分かってない。尾上さんはエロくて最高なのに」
高松の視線が俺を舐め回している。身体の隅々まで見られている気がして、熱が溜まっていく。
「長い手足も、白くて細い指も、薄い胸板も、ちょっと出てきたお腹も……全部好きですよ」
「う、るさいな……腹は余計」
節くれだった高松の太い指が俺の脇腹をなぞっていく。
「あ、締まった」
「おまえ…………」
俺をおちょくって、挙句の果てにニヤついているのが気に入らない。俺だって高松を弄んでやりたいのに。
思い切って足裏をベッドに着ける。高松からは結合部が丸見えだ。
上下にピストンする度、ローションの水音が部屋中に響いた。
「それ、最高ですねっ……」
遂に我慢できなくなったのか、高松は俺の腰を掴んで突き上げてきた。
──鋭い快楽が脳天を突き抜ける。
「あ゙ッッ♡♡……ちょっ、とっ……っ♡おれが♡する、って……♡」
擦れたところから鋭い痺れが広がって、身体全体に伝わっていく。
「さっきから自分が気持ちいいとこ当ててるでしょ。俺のことも忘れないでほしいな〜」
「ゔぅ〜っ♡……ぁッ……♡♡」
高松の反撃に耐えられず、倒れてもたれかかってしまう。勢いよく前かがみになったせいでペニスが抜けてしまった。
「あっ……ごめん、抜けた……」
高松は俺を優しく抱きしめ首筋に軽く口付けた後、何度か強く吸い付いていた。キスマークでもつけているのだろう。
「高松、また挿れないと」
「ん。こんどは正常位でシよ。……ダメ?」
本当は有無を言わさずヤりたいはずなのに、取ってつけたように同意を求める。ずるい奴なのだ。そんな高松を可愛いと思うのだから、俺も大概だけれど。
「……ダメじゃない」
耳元で小さく笑い声がしたかと思うと、高松は俺を仰向けに転がして大股を開かせた。
「うわ……えろい穴」
ため息を漏らしては、先程までペニスが入っていた穴をジロジロと見つめている。
「今さらなに見てんだよ……は、早く挿れろよ」
正直我慢できない。中途半端に放り出されて、身体は熱を帯びている。頭だって沸騰しそうなのだ。
「はは……そうですね」
高松はいつもより力なく笑ったと思えば──ぴたりと、ペニスの先っぽを俺の入口に押し付けてくる。それから半ばねじ込むように、強引に侵入してきた。俺の腰をしっかり掴んで最奥を目指して。
高松の目は座っていた。
──俺はこの目が好きだ。俺を求める時の、欲にまみれたオスの目が好きだ。たまらない。
「ぅ゙ぅっ……たか、ぁ……まつ♡」
「うん、おがみさん」
「キス……♡きす、して……♡♡」
こうなったらもう止まれない。うわ言のようにキスがしたいとねだってしまう。
唇と唇が触れる瞬間が好きだ。なんだか甘い気がして。
身体に高松を迎え入れて、幸せを感じながらするキスは格別だ。何事にも変えられない。
「はぁ……やっぱり尾上さんは、こんなに可愛くてえっちで最高なんだよなぁ」
真っ直ぐ目を見て伝えられると顔が熱くなる。そういうことを言う方がこっ恥ずかしいと思わないのだろうか。
「……ばか、なに言ってんだ」
「えっちしながらキスしてキスして……って迫ってくる恋人なんて、世界一可愛いに決まってるじゃないですか」
もう一度、唇を塞がれた。
むさぼるように何度も唇を重ね合わせた。舌まで強く吸われて本当に食べられてしまいそうだ。酸素が薄くなってきて、頭がぼーっとしてくると、高松が何を言っているのか分からなくなってきた。
「っあー……最高」
ゆるゆると腰をふられてもどかしい。
「は、あっ……♡た、たかまつ……もっと」
ダラダラと先走りが垂れて、下腹部を濡らしている。もっともっと動いてほしい。気持ちよくなりたい。
「イきたい?」
高松は返事も待たず俺の片足を持ち上げて、腰を引き寄せた。さらに奥、壁の向こうを越えてくる。
「んン゙ッ! ……ぅ……んぅ♡♡」
激しく何度も突き上げられ、喉が枯れるまで喘いだ。もはや理性も何も残っていない。自分が何を言っているのかも分からない。
高松は一心不乱に腰を打ち付け、何も言わず息を荒げている。
「あ゙っ♡ぁっ……あ゙~っ…………♡」
目の前が白くかすんでいく。きっとすぐに限界が来てしまう。
「はぁ……イきそー……」
「ん゙ぅ……イっ、イく……♡♡」
「尾上さんもイきそう? じゃあ一緒にイこっか」
激しくなるピストンに耐えきれず、高松にすがってしまう。イきたい、イきたい──。
「あっ♡あ♡あぁ……♡♡ン、ん゙〜ッ!」
背中が弓なりにしなる。身体がビクビクと痙攣する。ペニスから白濁が溢れて自身の腹を汚していた。
「尾上さん、おがみさん……っ!」
惚けた頭でも、身体の中で高松のものがドクンと脈打つのが分かった。
身体が重い、腰が痛む。
全く起き上がる気になれず、汗と体液を吸ったシーツにくるまってベッドに沈んでいた。
これじゃタバコを吸う気にもならない。ぼんやりとした頭で、隣で伸びをする広い背中を見つめていた。
「すきだなぁ……」
俺はどうしてこんなに、こいつに入れ込んでいるのだろうと今さらになって思う。
好きな顔だから? 優しいから? 面白いから? 全部正しいけれど、それだけじゃここまで好きにならない。
波長が合うとでも言うのだろうか。いや、俺は偏屈だから、高松が合わせてくれているのかも。
無理をさせているんじゃないかとたまに不安になるのだ。
「どうしたの、しみじみと。俺も尾上さんが大好きですよ?」
隣に滑り込んできた高松は俺の肩を抱いた。
高松はいつだって温かい。時に心地よく、稀に暑苦しい。
「なぁ、俺はお前の言う『誘惑』ができたのか? 気使わないで正直に言えよ」
「うーん……60点ってとこですかね?」
ひ、低すぎる。
「嘘だろ? 俺なりに頑張ったつもりなんだが」
「確かに頑張ってたとは思いますけど、健気で可愛いが一番に来ますね。胸を打たれるというか」
頭まで撫でてくる始末。俺を何だと思っているのだろう。
「子供じゃないんだから、それやめろ。まったく……マンネリ防止にはなってたからいいだろ」
「マンネリ……何の話ですか? 俺はマンネリなんて思ったことないですけど」
「はぁ……? じゃあお前は本当に、俺に『うっふ〜ん♡あっは〜ん♡』してほしかったのか? そんなの死んでも御免だぞ」
「……語彙が昭和ですね」
「実際昭和生まれなんだから仕方ないだろ」
自分は平成ですけどって顔しやがって。お前も立派な昭和生まれだろうが。
「はぁ……全く」
なんてくだらなくて、平和なんだ。
「なに笑ってるんですか」
知らず知らず、笑みがこぼれていたらしい。
「……いや、お前が怪我も病気もせず、元気に過ごせて良かったなって思ったんだよ」
「なんかはぐらかされた気もするけど……たしかに健康って一番大事ですからね」
何の事件もないことが一番の幸せだ。たとえ今後セックスなんてしなくても、高松の健康診断の結果が良ければそれでいい。そう思うようになったのは年を取ったからなのか、それとも高松と一緒にいるようになったからなのか。──それはきっと、両方なのだと思う。
流行りの歌や小説が『これが愛か恋か分からない』と歌う理由が、今になって分かった気がする。俺を好きでいてくれなんて思わないけれど、幸せでいてほしいと思うから。
「誕生日おめでとう……健太郎。今年も絶対、元気でいろよな」
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