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第3話 礼鸞とタマ

 俺の口で、せっせと性処理に勤しむ男は、声に無関心だった。  ―― ガッ  俺を相手に腰を振っていた男の頭が、無造作に捕まれた。  まるで猛禽類が獲物を捕らえるかのように頭を掴んだ礼鸞は、不機嫌な感情そのままに男の顔を自分へと向ける。 「オレのダチに偽金掴ませたの、あんた?」  俺の口に押し込まれていたペニスが、じわりと硬さを失った。  俺は、再び男の腿を押しやり、そこから這い出す。 「げ、ほっ……ぅ、げぇ………」  遡ってきた胃液が、俺の口から吐き出され地面を汚した。  応えない男に痺れを切らせた礼鸞は、捕まえている獲物を捨てるように放ち、俺の手の中でくしゃくしゃになっている札を引っ手繰(ひったく)る。  ピンと伸ばしたそれを月明かりに翳し、小馬鹿にするように、ふっと鼻から息を吐いた。  照らされたそれは、透かしもなにもなく、あからさまな偽装紙幣だった。  放られた男は、縮み込んだイチモツをだらしなく曝したままに地面の上で震えていた。 「やるなら、もう少しマシなもん造れよ」  はあぁっとわざとらしく溜め息を吐いた礼鸞の足が、曝されている男の股間に当てられ、じりじりとそこを踏みつける。 「…っ、……ぃだ…っぁ…」  自分の急所を潰してくる足を退けようと足掻く男に、不敵な笑みが降り落ちる。 「こんな粗末なもん慰める必要ねぇだろ。てか、使えるから厄介なんだよな。潰してやるから、感謝しろよ?」 「ぁ……、ぃ、ぁあ………」  脂汗をだらだらと流し、蒼白な顔を曝す男の痛みと恐怖に締まった喉は、言葉の紡ぎ方を忘れたようだった。  じわりと広がったのは、男が漏らした小便だ。  チッと暗闇を揺らすほどの音量で舌を打ち鳴らした礼鸞は、踏みつけている足を汚水から逃がす。 「かかってんじゃねぇかよ……」  苛立ちのままに逃がした足を振り上げ、怯える男の側頭部を蹴り飛ばした。  ズザッと地面を擦る音を響かせ、男が倒れ込む。  事切れたように動かなくなった男に、身体が震えた。  礼鸞は、ぴくりとも動かない塊に靴を擦りつけ、汚れを拭う。  片がついたであろう現場に少しだけ離れて状況を見ていたタマが、ゆるりと近づいた。 「鸞ちゃん、大好き」  んー、と背伸びをして頬にキスをしようとするタマに、礼鸞は大きな手で近寄る顔を覆い、退(しりぞ)けた。 「はいはい。オレは、お前にキスされても嬉しくねぇの」  顔にかかる手を掴み剥がしたタマは、むうっとわかりやすく不満を露にする。 「これでも、あの界隈(へん)では引く手数多(あまた)なんですけどぉ?」  唇を尖らせ拗ねてますアピールをするタマ。 「僕からのちゅーは、貴重なんだからねっ」 「はいはい」  頭をわしゃりと撫で、礼鸞はタマを煙に巻く。  もうっと苛立ち紛れの声を放ったタマは、ピクリとも動かず、地面に転がっている塊を八つ当たりとばかりに蹴飛ばした。 「ふぅ。さ、稼ぎ行こ。いつもありがとね、鸞ちゃん」  ちゅっと投げキッスをするタマに、礼鸞は辟易した顔を見せていた。

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