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第5話 広すぎる台所
腕を捕まれたまま歩く道すがら、礼鸞の名を教えられ、俺も名を伝えた。
連れ帰られたのは、昔ながらの日本家屋だった。
威圧感のある門構えに、瓦屋根の重厚感。
松や梅、椿が所狭しと中庭を彩っていた。
引戸の玄関を空けた瞬間、靴を履こうとしていた男が慌て顔を上げた。
「若っ。どこ行ってたんすかっ!」
血相を変える男に、礼鸞は気怠げに声を返す。
「んー。タマが偽金掴まされたってぶちギレしてたから、伸してきた」
いちいち報告するようなコトでもないと言いたげな礼鸞は、そのまま靴を脱ぎ、玄関に上がる。
俺は掴まれたままの腕に、慌て礼鸞に習い、靴を脱ぐ。
家に上がろうとする俺に、男の恫喝染みた視線が突き刺さる。
次の瞬間、べちんっと小気味いい音を立て、男の頭が叩かれた。
「怯えさすな。こいつじゃねぇよ。こいつも騙されかけてたの」
俺が靴を脱いだコトを視線で確認した礼鸞は、真っ直ぐに延びる廊下を、のそのそと闊歩する。
「出掛けるならそう伝えてくださいよ。それに、そんなの若が直々に赴かなくても…。言ってくれれば、俺が片付けますから……」
見つかったコトへの安堵と、無駄な精神疲労に、礼鸞の後を追いながら説く男。
長い廊下を歩く礼鸞の足が、ピタリと止まった。
ポケットを探った礼鸞は、例の身分証を取り出すと、それを男に押しつける。
「明日、返しといて。100用意しとけって伝えてあっから」
あとはヨロシクとでもいうように、ひらひらと手を振り、再び歩き出す。
礼鸞に連れられるまま、キッチンであろう部屋に入った。
キッチンだという確証が得られなかったのは、その部屋があまりにも広すぎたからだ。
「……なんかあったかな」
頭をぼりぼりと掻きながらシンクへと足を進め、俺の腕を放った礼鸞は、収容棚を片っ端から開けていく。
ぐるるっと鳴ったのは、礼鸞の腹だった。
「俺、簡単なものなら作れますよ?」
「マジ?」
驚きと喜びの混じった笑みを浮かべた礼鸞は、俺を冷蔵庫の前へと誘導し、背後から扉を開ける。
「あるもん好きに使って。ちゃんとお前の分も作れよ?」
後ろから、俺の頭をぽんっと叩き、任せたと礼鸞は離れていく。
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