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第6話 食べるなら旨いものを
料理は、得意だった。
食べたい物を適当に買ってくる母親に、俺は庫内に残っている食材で料理をするのが常だったからだ。
簡単な野菜炒めと、白米にワカメと卵の味噌汁。
軽く10人は座れそうな大きなダイニングテーブルの端に、2人分の料理を並べた。
「お。旨そうじゃん」
傍に寄ってきた礼鸞は〝よくできました〞とでもいうように、俺の頭をわしゃりと混ぜる。
どかりと椅子に腰を下ろした礼鸞は、ぱんっと手を合わせ、いただきますと食事を始めた。
俺は礼鸞の隣の椅子を引き、そっとそこに座った。
もそもそと咀嚼しながら、礼鸞は言葉を紡ぐ。
「お前、帰る場所あんの?」
視線は料理に向けられたままで声だけを向けてきた礼鸞に、俺も食事を進めながら、ぼそりと言葉を返した。
「一応……」
歯切れの悪い俺の言葉に、礼鸞が言葉を繋ぐ。
「家はあるけど、帰りたくねぇってコトか」
僅かに逡巡した礼鸞は、言葉を足した。
「暫く、ここに居るか?」
ちらりと投げられた視線に、迷いのある俺は即答できなかった。
すぐに料理へと視線を戻した礼鸞は、食べ進めながら、ぼそりと声を零す。
「捜索願とか出されたら面倒だけど……」
その文言には、すぐに否定の言葉を紡げた。
「その心配はないです。今日も締め出されたんで……」
何日か空けて戻っても、母親に俺を探した素振りはなく、帰ってきたのかと顔を歪められるだけだった。
「ここに居るってんなら、飯作ってほしいんだけど……」
礼鸞の言葉に、疑問符を浮かべた。
言葉の意図を探ろうとする俺に、礼鸞の視線が動く。
キッチンへと繋がる扉へと一瞥をくれる礼鸞に、釣られるように向けた瞳には、先ほど玄関先で出会 した男が映った。
「あいつの作る飯、あんま旨くねぇんだよ」
眉尻を下げた残念顔を見せる礼鸞に、俺は背を押された。
「……じゃあ、お世話になります」
肯定の言葉に、礼鸞は嬉しそうな笑みを浮かべた。
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