7 / 160
第7話 背の龍の呼吸音
その日の夜。
先にシャワーを浴びてこいと風呂場に連れられた俺。
だが、着の身着のままで追い出された俺は、金もなければ着替えもない。
そんな俺に用意されたのは、オレのでいいかと渡されたサイズの合わない大きなスウェットだった。
調理器具や食材の確認が必要だろうと俺をキッチンに置き、礼鸞が入れ替わりで風呂に向かった。
何人前のご飯を作らなくちゃいけないのかと懸念していたが、礼鸞と俺の分だけでいいと言われ、胸を撫で下ろす。
キッチン回りは、野菜炒めを作った時に粗方確認はしていたが、お復習のように、ざっと目を通す。
納豆や豆腐、葉物野菜なんかも冷蔵庫に入っているのも覚えていた。
朝御飯の定番と言えば、卵焼きと鮭……か?
とりあえず、冷凍庫も開けて、確認しとくか。
「……っ」
冷凍庫の扉を開いた瞬間、後ろからにゅっと手が伸びてきた。
びくりと肩を竦め、振り返った先にいたのは、上半裸の礼鸞だった。
「あ、悪ぃ。驚かした?」
なんの反省の色もない謝罪を述べた礼鸞の手は、冷凍庫にあるアイスを物色する。
「お前、怖がり?」
気に入るものがなかったのか空っぽの手を引っ込め、疑問符を浮かべる礼鸞に、俺は口を開かなかった。
中途半端なプライドが小心者だと肯定するのを拒んでいた。
黙っている俺に、礼鸞はくすりと笑う。
「これ見たら、卒倒するんじゃね?」
礼鸞は、くるりと回転し、俺に背を向けた。
その背中には、ギラリと目を光らせる登り龍の姿があった。
龍と目が合った俺の心臓が、どくりと音を立てる。
息を飲む俺に、肩越しに振り返った礼鸞は、困ったもんだと呆れ混じりに眉根を寄せた。
「こっちの世界では、こんなの普通だからな。てか、大人しいくらいだぞ」
慣れないとここで生活するには身が持たないと、礼鸞は眉尻を下げた笑みを浮かべた。
でも、俺は恐怖に息を飲んだ訳ではなかった。
あまりにも綺麗な龍の姿に、見惚れてしまっていただけだ。
「カッコ良くて、見惚れてたんだ。触っても…いい?」
衝動を抑えられない俺は、尋ねながらも指先を伸ばしていた。
礼鸞の答えはなかったが、逃げない身体は触れるコトを許したのだと勝手に解釈する。
龍に触れた俺の指先から、どくどくと蠢く拍動を感じた。
実際は、礼鸞の心音が響いてきているだけだったが、それはまるで背の龍が呼吸をしているかのようだった。
ともだちにシェアしよう!