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第8話 離れがたくて、甘んじた

「オレの傍にいるなら、入れといた方が無難だよな。お前にも……」  話を続ける礼鸞の横で、暗いはずの窓の外が、瞬間的に激しく光った。  ―― ゴゴゴゴゴォ…ッ 「……っ」  思わず、肩が跳ね上がる。  音に驚き向けた瞳には、ビリビリと振動する窓ガラスが映った。  窓ガラスの痺れた音を追うように、ザーッと雨音が響き始める。  どうやらゲリラ雷雨が発生したらしかった。 「お前、雷も怖ぇのかよ」  触れている指先から驚きを感じ取った礼鸞は、呆れの混じる声を紡ぎ、肩越しに俺を振り返る。 「び、びっくりしただけ……」  触れていた手を引っ込め、恥ずかしさに赤くなる頬を隠すように、顔を背けた。  大きな手が俺の頭を柔らかく引き寄せ、危険なものから守るかのように、その胸に抱かれた。  礼鸞の腕に抱かれた俺の鼻腔をボディソープの香りが、ふんわりと擽る。 「だいじょーぶ。俺が居る。……雷は、高い方に落ちんだろ?」  礼鸞の手が、安心しろというように、柔らかく俺の頭を撫でてくる。  自分の方が大きいから避雷針になれると宣う礼鸞に、こんな風に抱き込まれていたら、一緒に感電してしまうだろうと心の端で呆れていた。  だが、身体を包む温もりに、その場を離れがたくなる。  こんな風に、抱き締められた記憶など、俺の頭を浚っても、どこにもなかった。  礼鸞の腕は、感じたコトのない安堵感を俺に与えた。  幼児期の子供ではない俺は、かばってもらうほど未発達なわけではない。  守ってもらわなければならないほど貧弱でもない。  16歳の男ならば、恥ずかしくなるようなコトなのに。  その時の俺は恥も外聞もなく、怯えているフリをして、その腕の中に甘んじた。  激しく降った雨は、直ぐに姿を消した。  ポツポツと柔らかな雨音は続いたが、雷の音も豪雨の気配も鳴りを潜めた。  はっとしたように緩んだ礼鸞の腕が、俺を解放する。 「悪ぃ、悪ぃ」  ばつが悪そうに顔を歪めた礼鸞は、がしがしと頭を掻く。 「あー。寝床、な」  気まずい空気を払拭するように、話題を切り替えた礼鸞に連れられ、彼の部屋に足を踏み入れた。  15畳ほどの和室で、奥の6畳ほどを仕切るように襖が引かれた。 「そっちからも、出入りできっから」  出入口と称された場所には、襖が連なる。  開け放てば、廊下とも一続きになりそうな空間だった。

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