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第9話 阻めない音の誘惑

 翌朝、寝惚けた俺の耳に、ギッギシッと軋む音が響いてくる。 「あ……ん、………」  鼻にかかる甘えたな吐息に、詰まるような喘ぐ声。  その隙間を縫うように、ぐちっぬちゅっと粘り気のある水音が響いていた。  礼鸞がいる空間と俺の居場所の間ある1枚の襖を隔てた先で、なにが行われているのかを察してしまう。  話の内容を聞き取るまではいかないが、耳に届く可愛らしい声は、タマのものだとわかった。  あの場所も、この界隈と称された場所も、タマがそういう仕事をしているのだろうコトを容易に連想させていた。  男同士のセックス。  嫌悪や忌避は、なかった。  ただ起き抜けの俺には、少しだけ刺激が強すぎた。  甘く啼くタマの喘ぎが、耳を犯す。  時折響く、礼鸞の低い呻きも、そわりと俺の神経に触れてくる。  逃げるように布団の中へと潜る俺の目蓋の裏で、昨夜見た背中の龍の鋭い瞳が蘇り、そわりと肌が、粟立った。  朝の生理現象で硬く勃ち上がっているペニスが、どくりと蠢き、下着を湿らせる。  布団の中にまで忍び込んでくるタマの嬌声に、いけないコトだと思いながらも下着の中に手を滑らせた。  触れたそれは、どくりどくりと血を巡らせる。  頭まで被っていた布団から、そうっと這い出てしまった。  襖に触れるコトまでは、出来ない。  それでも届く完全なる情事の音は、自分を慰めるのに充分なオカズ、…だった。  大きな礼鸞の服の裾を咥えて、声を殺した。  俺が擦っている場所から微かに響く音など、隣の部屋に比べれば微々たるもので。  襖を見ても自分自身を見ても虚しくなるのならと瞳を閉じれば、半裸の礼鸞の姿が思い浮かび、その上で燻るタマの痴態までもを想像してしまう。  媚びるように啼くタマの声が耳に届き、腰が震えた。  息を詰め、声を殺したオレの手には、ねっとりとした白濁がへばりつく。  吐き出した興奮に、頭がさあっと冷めていく。

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