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第11話 ポチの仕事
俺の戸惑いに気づいた男、ポチは言葉を繋いだ。
「あ、柴田 謙治 。…でも、ポチでいいよ。俺、若の犬だから。2年前に拾ってもらって、ここに住み着いてんの」
箸を握り、テーブルを指差すポチ。
「こっちは若の家。オヤジは、あっちに住んでる」
ちらっと投げた視線は、大きな窓から見える道路を挟んだ向かいに建つ家を見やる。
「前はこっちが本宅だったんだけど、あっち建ててからは、こっちは離れになってんだよね」
大きさに変わりはないが、本宅の方が現代的な造りになっているように見えた。
本宅を眺める俺に、ポチの言葉が続く。
「お前も、ここに住むの?」
食事を再開したポチは、目の前の鮭を箸で解し始める。
「あ、はい。居てもいいって…飯作るならって」
なるほどね、とポチはうんうんと首を縦に振りながら、食事を進める。
「家政婦…みたいなもんか。あ、俺は若の犬、…てか世話係、かな。若が面倒がってやらない雑多な仕事、片付けんのが俺のし、ごと……」
ぴたりとポチの動きが止まった。
「あー……。嫌なコトは、さっさと終わらすか!」
味噌汁で口の中の物を流し込んだポチは、勢いよく立ち上がる。
「ごちそーさん。俺、金取りに行ってくるわ」
昨日の礼鸞の言葉を思い出したらしいポチは、食器をシンクへと運びながら言葉を繋ぐ。
「若、起きたら伝えといて」
袖を捲り始めるポチに、俺は座ったままに声をかける。
「そのままでいいですよ」
昼まで起きてこないのなら、俺はそれまで暇になる。
洗い物は、その暇潰しだ。
洗っておきますという俺にポチは、じゃあよろしくと片手を上げ、出掛けていった。
片付けも終わり、本気で暇を持て余す。
部屋に戻るのも気が引けたが、布団が敷きっぱなしになっているのも気にかかった。
そろりと部屋に近づいた俺の耳にあの音は聞こえこず、しんと静まり返っていた。
たぶん、2度寝でもしているのだろう。
さっと布団を畳んだ俺は、再びキッチンへと戻り、常備菜でも作るかと腕を捲った。
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