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第13話 モーゼの十戒の真ん中に

 タマと出会ったのは、ほとんど通った記憶のない高校1年の初夏。  珍しく気の向いたオレは、暇潰しがてらに学校に顔を出していた。  がたいが良く、身長も180を越える大柄。  目付きの悪い極悪顔で、さらに比留間の名が箔をつける。  大概の人間は、オレを警戒し、近づいては来なかった。 「イケメンみぃ~っけ」  (みな)がモーゼの十戒の海割りのごとくオレの姿に逃げ去っていく中、1人の男が目の前に立ち憚った。  にこにこと満面の笑みで見上げてくる人物に、オレは万人が凍えるほどの冷たい視線を向けた。 「ねぇ。比留間くんだよね?」  オレの素性をわかっていて萎縮するコトもなく、こんなにもフレンドリーに話しかけてくる男、タマが不思議でならなかった。 「僕、友達になりたい。あわよくば、もっと親密に……っ」  ふんすっと鼻息荒く手を出してくるタマに、オレは眉根を寄せる。  まるで告白の返信を待っているかのようなタマ。 「お前…、オレ怖くねぇの?」  怪訝な表情のままに問うオレに、タマはきょとんと口を開いた。 「怖くないって言ったら嘘になるけど、怖さよりカッコよさが勝っちゃってるんだよなぁ」  じぃっとオレの顔を眺めたタマは、にんまりと笑う。 「それに、比留間の名前も、義理堅そうだし……仲良くなっておいたらさ、守ってもらえそうじゃん? ほら。僕こんな(なり)だから…危ないでしょ?」  人差し指で唇に触れたタマは、可愛いというよりエロいという言葉が似合いそうな艶のある笑みを浮かべた。 「お前を守って、オレになんの得があんだよ」  ケッと言葉を吐き捨てるオレ。  自分に魅了できない人間など、この世に存在するわけがないとでも言いたげなタマは、んふっと小さく笑う。 「僕、鸞ちゃんになら、ナニされてもいいよ?」  あざとさが滲む笑顔のままに、駄目押しとばかりに、こてんと首を傾げて見せるタマ。 「は?」  〝鸞ちゃん〞などと気安く呼ばれたコトにも驚いたが、同じ男相手に何を言っているのだとオレの眉間の皺が深くなった。

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