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第16話 見つけてしまった痕跡

 朝からの激しいセックスに、寝床を離れたのは昼過ぎだった。  タマは、未だにすよすよとオレの布団で寝息を立てている。  ぐるぐるとなる腹に、キッチンへと向かおうとしたオレの目に、締め切られた襖が映る。 「あ………」  やべぇ。昨日、連れ帰ったんだった……。  瞬の存在を、すっかり忘れていた。  なんとも言えない気まずさが、胸に広がった。  タマに頼まれ、偽金を掴ませた男を仕留めに向かったコンテナだらけの倉庫街。  目の前で繰り広げられた一方的な制裁に、瞬は本気の怯えからくる涙目でオレを見上げた。  タマのように自覚している色香ではなく、無自覚に放つフェロモンほど(たち)の悪いものはない。  あの場にそのまま放置してしまえば、また違う男の餌食になる未来しか見えなかった。  雷に怯える瞬に、反射的に守らなければと身体が動き、胸許に抱き寄せていた。  馬鹿にするなとキレられるかと思ったが、瞬は俺の腕の中で固まっていた。  どちらかといえば、すり寄ってきているようにすら感じた。  そんな趣味は、ない……。  思うのに、素直に甘えてきた瞬を可愛いと感じるオレもいて。  タマを相手にしているうちに、男まで射程圏内に入ってしまったのかと、自分の適応能力を呪う。  ここで瞬に手を出してしまったら、オレは喰らえるものならなんでも喰らう獣だ。  最後の一線を越えたくないオレは、気のせいだと頭を振るい、慌て瞬を解放した。  はああっと重い溜め息を吐き、襖に手をかける。 「瞬。開けるぞ」  声と共に、襖の引手を引いた。  開け放った先に、瞬の姿はなく、綺麗に畳まれた布団があるだけだった。  ふと視界に入ったゴミ箱の中には、いかにもなティッシュの塊が鎮座していた。  うわぁ……。あいつ、オレらでヌきやがった。  あからさまな自慰の痕跡に、頬が引き攣ったが、瞬ばかりを責められないとも思ってしまう。  タマのあの声に、充満する濃密で淫靡な空気感。  男同士だとわかっていても、興奮してしまうのは致し方ない。  はあっと気怠く息を吐き、瞬を探す。  サーッと流れる水の音が耳に届いた。  たぶん、音の出所はキッチンだろうと、足を向けた。

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