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第17話 思いの外、可愛い

 覗いたキッチンには、洗い物をする瞬の姿があった。 「ここにいたのか」  安堵の思いに、声が零れていた。  瞬の姿に、ほっと胸を撫で下ろす。  ……居なくなってなくて、良かった。  必死に探していたわけではない。  たぶん、出ていっていたとしても、外まで探しはしなかった。  そこまでの義理や執着は、持っていなかった。  でも、消えてほしくは、…なかった。  ふと顔を上げた瞬の瞳が、オレを捉えた。  流れる水を止めた瞬は、傍にあるタオルで手を拭い、口を開く。 「ポチ、さん? が、お金取りに行くって出掛けました」  ポチに敬称をつけるべきなのか、でも〝さん〞付で呼ぶのも違和感があるというように瞬の声は、ふわふわと揺らぐ。  くはっと笑うオレに、瞬のいじけたような視線が刺さる。 「ポチは呼び捨てでいいだろ」  瞬に歩み寄り、その頭をくしゃりと撫でながら、キッチンに並ぶ惣菜に目を留めた。 「旨そ」  摘まみ食いをしてやろうと伸ばした手が、ぺちんっと叩かれる。 「今、盛り付けますから。食べるなら座ってから」  お行儀が悪いと叱られたオレは、顔すら洗っていなかったと思い至る。 「あー、顔洗って…、ついでだから、シャワー浴びてくるから、準備しといて」  汗かいて気持ち悪いんだよな、と呟いたオレに、瞬の瞳が動揺を露に、盛大に游いだ。  あまりにも可愛い瞬の反応に、悪戯心が疼く。 「盗み聞きは、良くないよなぁ?」  にまにまと意地の悪い笑みを浮かべ、瞬を揶揄う。  オレの揺動に、顔を真っ赤に染めた瞬が、意外な反応を示した。 「と、と、盗聴しようと思って聞いたわけじゃなくて、聞こえちゃったんだから、不可抗力っ。音漏れするような場所でヤる方が悪いでしょっ」  こっちの方が迷惑を(こうむ)った被害者だと反論してくる瞬に、面食らう。  聞いてないとシラを通すかと思いきや、聞こえた上に、被害を受けた、と。  その言葉は、ムラムラしてオカズにしましたと自白するのと同義だろ。  あまりの可笑しさに、ふははっと笑ってしまったオレは、恥ずかしさに震える瞬の頭を手荒く混ぜる。 「悪かったな。あそこぐらいしか片付いてねぇんだよ。自分で片付けんなら好きな部屋使っていいから」  話を締めるようにぽんぽんっと瞬の頭を叩き、オレはバスルームへと向かった。

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