18 / 160
第18話 大丈夫、大丈夫…
シャワーを浴び、腹拵えも終わったオレは、出掛ける支度を始めようと腰を上げた。
オレと入れ違うように、眠たげな瞳を擦りながら、タマがキッチンに顔を出す。
「いい匂い……」
すんすんと鼻を鳴らしながらオレの背後に来たタマは、後ろから抱き着き、横から食卓に並ぶ惣菜を見やる。
「食べます?」
空いた茶碗を下げようと動き始めていた瞬が、声をかけてくる。
「僕の分あるの?」
ポチが作ったご飯を食べたタマが不味いから要らないと言ってから、いつも俺の分しか用意されていなかった。
声に視線を向けたタマは、ぱちぱちと瞳を瞬く。
「……あ! 昨日のコっ」
「そ。瞬、な。しばらくウチに居候するから」
腰に絡みつくタマの腕を剥がし、オレが座っていた場所に座らせた。
「こっちはタマ、な」
タマの頭にぽんっと手を乗せるオレ。
「タマ、さん?」
「みんなタマって呼ぶから、タマでいいよ」
ふあぁっと欠伸をしたタマは、瞬からオレへと視線を移した。
「鸞ちゃん、どっか行くの?」
席を立ったオレに、出掛けるコトを察したタマが問うてくる。
「女んとこ」
なんでもないコトのように紡いだオレに、タマではなく、瞬の瞳が焦りに揺らいだ。
オレとタマがヤっていたコトを知っている瞬は、仮しも身体の関係がある相手の前で他の女の影をちらつかせるのは、どうなのかと戸惑いを浮かべる。
反応を確認するようにタマへと向いた瞬の瞳に映るのは、わかりやすい不機嫌顔だ。
タマを視界に捉えた瞬は、空気を読めとでもいうように、眉を潜めた顔をこちらへと向けた。
だが、瞬にオレたちの関係に口を挟む権利などない。
叱られる義理などないオレは、顰めっ面でこちらを見やる瞬にかまわず、平然と言葉を繋いだ。
「ポチ、金取りに行ってるらしいから。それ受け取ったら、帰れよ」
わしゃりとタマの頭を混ぜ、嫌な空気が充満するその場所から離れた。
タマに乗られたその日は、決まって女を抱いた。
―― 大丈夫。俺は、女を抱ける。
いつもタマの残像も掻き消すように、無心で女を抱いていた。
普通を装い、嘘を吐く罪悪感が心の片隅で、いつも燻っていた。
女へのだらしなさなら、男の甲斐性だと釈明できる。
だが。孔ならなんでも良いとなれば、それは、ただの獣で。
俺は、そこまで堕ちたくは、…なかった。
堕ちないためには、しがみつくしかなくて。
タマに感じる想いも、瞬に惹かれかけている心も、オレは気づかないフリをするしかなかった。
ともだちにシェアしよう!