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第19話 なかなかの切れ者 < Side タマ

 逃げるように出掛けていった礼鸞が消えた扉を睨みつける。 「ご飯、食べます?」  憐れみの色が混じる空気を纏い、気まずそうに問うシュンの声が耳に届く。  僕は、不満たらたらのままの声を返す。 「敬語もご飯もいらない」  むすっと顔を歪め、椅子の上で膝を抱えた。  なんで昨日今日会ったヤツに、同情されなきゃいけないんだよ。  礼鸞の部屋の片隅に、畳まれた布団があった。  たぶん、シュンはそこで寝ていた。  つまりは、僕と礼鸞が隣でナニをしていたのか、筒抜けだったというコトだ。  シュンはたぶん、僕が都合よく性処理に利用されているとでも思っているのだろう。  要らないと告げたにも関わらず、キッチンへと向かったシュンは、ご飯を盛った茶碗を片手に戻ってくる。  お節介なシュンに、苛々が募っていく。  勝手に同情して、勝手に憐れんでんじゃねぇよ。  なんにも知らないクセに。何様だよ。  礼鸞には、拾ったコを食ってないし、男で抱くのは僕だけだと言われた。  だけど、礼鸞とシュンの距離は、思ったよりも縮まっている気がした。  礼鸞は、シュンに気を許している。  そんなのは、礼鸞の態度を見れば明らかだ。 「この、きんぴら。礼鸞さん、美味しいって言ってたんだ」  ちょこんと1口分のきんぴらを乗っけたご飯を差し出しながら、シュンは首を傾げた。 「お世辞だと思う? 本心だと思う?」  言葉の意図がわからずに、僕は眉根を寄せた。 「これから、ご飯作るっていう約束でここに置いてもらうんだけど、ちゃんと美味しいご飯作りたいから」  教えてくれないか、とシュンは下手に出る。  デリカシーの欠片もなく、僕の前で女のところへ行くと言い放った礼鸞。  僕とシた後は、お口直しとでもいうように、決まって女の所に行く。  たぶん、きっと、間違いなく。  僕とのセックスを、無かったコトにするため、だ。  僕とヤったその後に、女の所に行く礼鸞は、シュンの中でヤリチン確定だ。  そして、そんな礼鸞に機嫌を損ねる僕。  自分の居候の理由も、礼鸞とヤる為だと誤解されていると考えたシュンは、炊事要員としてここに住むのだと、自分と礼鸞の関係を(つまび)らかにし、暗に、でも明確に肉体関係を否定した。  僕を気遣い繊細な部分には触れずに、誤解を的確に()く。  あまつさえ、自分よりも礼鸞のコトをわかっているでしょ? とでも言いたげに、僕を持ち上げ、機嫌さえも直してしまう。  シュンは、なかなかの切れ者らしい。 「鸞ちゃんは、お世辞とか言わないよ」  怒っているのが、馬鹿らしくなる。  シュンから茶碗と箸を受け取り、きんぴらの乗るご飯を口へと運んだ。

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