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第26話 間違った選択

 やっぱりかと言いたげに、ポチは面倒臭げに息を吐く。 「俺も拾われた時、あいつにイビられたんすよ。まあ、こんな(なり)なんで、ここまでのコトはされませんでしたけど」  両手を広げて見せるポチに、掴んでいた黒髪男を荒く床へと放った礼鸞は、金髪男に触れていた足を持ち上げ、八つ当たり紛れにそこを踏み抜いた。  声すら上げられない激痛に、金髪男は股間を押さえ丸まった。 「あっの、クソネコ……っ」  チッと鳴る礼鸞の舌打ちが部屋に響く。 「柴田っ。ミケ、連れてこい」  怒りのままに床に転がる黒髪男を蹴飛ばした礼鸞は、傍に放られているシャツを拾い上げ、こちらには目もくれずに、乱雑に投げて寄越す。 「早く着ろ」  気を遣ってくれているらしい礼鸞は、背中を向けたままに、俺を急かす。  渡されたシャツを羽織った俺の手首が礼鸞に捕まれた。  苛立つ感情を隠す素振りもなく、俺の手を引き、部屋を出る。  俺の部屋に連れ戻され、タンスの前に立たされた。  なにを言わんとしているのかと礼鸞へと向けた俺の視界に、興奮気味に充血する瞳が映り込んだ。  背後から見えた礼鸞の耳が、赤く染まっていたのは、苛立ちからだと思っていた。  気づかぬふりを貫こうと下げた視線は、不自然に盛り上がる股間で止まってしまう。  知らぬ存ぜぬで、穏便にやり過ごすには無理があった。 「俺、あんたになら……」  前の肌蹴たシャツを羽織っただけの姿で、礼鸞の前に立った。  初めては、あんな奴らじゃなくて、せめて礼鸞が良かった。  家事だけでは、足りないというのなら…、ヤられたからと減るものでもないこの身体で払えるものならば、返すのもあり、かもしれない……。  ぴくりと眉を震わせた礼鸞の顔が、苛立ちに引き攣る。 「お前は、オレを(ケダモノ)にしたいのか?」  地を這うような低い音で紡がれた言葉に、冷たい汗が背を這った。 「オレ、言ったよな? 嫌がる男に手を出す趣味はねぇって」  嫌悪を露に凄まれ、身体が竦んだ。  黙ってしまった俺に、礼鸞の深い溜め息が部屋に響いた。 「ミケ説教したら出掛けるからな。支度して、大人しくしてろ」  部屋を出た礼鸞の手により、パシンっと音を立て、襖が閉められた。

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