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第29話 僕たちにだって心はある

「どんな心配してるんだか知らねぇけど、オレにも瞬にも、そんなつもりねぇよ」  はあっとあからさまな溜め息を吐き、言葉を続けた。 「それに、瞬が自ら来たんじゃなくて、オレがここに留めたの。とばっちりもいいとこだろ……」  瞬に非がないと理解させなければ、また何かを仕掛けてきそうな雰囲気に、ミケを納得させようと言葉を紡ぐ。  だがミケは、未だに疑念の残る瞳を向けてくる。 「オレの言うコトが信じられねぇんなら、瞬に直接、聞くか? オレにも瞬にも、そんな気はねぇって…、本人から、言質(げんち)取れれば満足か?」  我儘を紡ぐ子供を宥めるかのように問うオレに、ミケは、はっと小さく息を吐く。 「もういい。あんたに釘させたし。てか、タマの前で、他の女の話するとかデリカシー無さすぎだから」  そっちも、もういいでしょ? と、ミケは腰を上げ、膨れっ面で、しゃがんだままのオレを見下げる。 「ただの性処理の道具だとして、僕もタマも人だからっ。傷つく心、持ってんだからねっ」  イーッと歯を見せ威嚇した三毛猫は、ふぃっと顔を逸らし、足を踏み鳴らし帰っていった。  無駄な疲労感と共に、瞬の元へと戻る。  大きめのパーカーに、ラフなチノパンに身を包んだ瞬は、オレの姿に床から腰を上げる。  ゆるりと寄った瞬は、オレの顔色を窺いながら、口を開く。 「え、と。さっきは、ごめん……」  小さく囁かれた謝罪に、しょんぼりと悄気るその頭をくしゃりと混ぜてやる。  ここ数ヶ月で、瞬のために買い揃えた服は、どれもカジュアルな物だ。  フォーマルな物も考えたが、堅苦しいスタイルはしっくりこない気がして、柔らかな物ばかりを買い与えていた。 「こんな(なり)だからナメられるんだよな」  瞬の茶色く柔らかな髪を掻き上げ、額を露にした。  それでも、まだ庇護欲を唆る空気が抜けなかった。  無意識であろう怯えた瞳での上目遣いは、腹の底をぞわりとさせる。 「その顔やめれ。怖くてもビビっても、表に出すな。相手をツケ上がらせるだけだぞ」  ピンっと瞬の額を弾く。  弾かれた額を押さえた瞬の恨みがましい瞳が、オレを見やる。 「ま、言われたからって、出来るわけねぇよな」  さほど強く弾いたつもりはなかったが、赤らんでくる額を、瞬の指先を避け、詫びを込め(さす)ってやる。  白い肌に映える赤。 「やっぱ、刺青(スミ)入れるか……」  ぼそりと放ったオレの言葉に、瞬の眉間にきゅっと皺が寄った。 「魔除けだ、魔除け」  自分の尻の辺りをぱんぱんっと叩くオレに、眉間の皺がゆるりと解かれた。  たとえ、身包みを剥がされたとしても、睨みを利かせる龍がいれば、相手も多少はたじろぐだろう。 「それで、迷惑がかからなくなるなら」  ふっと短く息を吐いた瞬。  気合いの入った瞳が、オレへと向けられた。

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