29 / 160
第29話 僕たちにだって心はある
「どんな心配してるんだか知らねぇけど、オレにも瞬にも、そんなつもりねぇよ」
はあっとあからさまな溜め息を吐き、言葉を続けた。
「それに、瞬が自ら来たんじゃなくて、オレがここに留めたの。とばっちりもいいとこだろ……」
瞬に非がないと理解させなければ、また何かを仕掛けてきそうな雰囲気に、ミケを納得させようと言葉を紡ぐ。
だがミケは、未だに疑念の残る瞳を向けてくる。
「オレの言うコトが信じられねぇんなら、瞬に直接、聞くか? オレにも瞬にも、そんな気はねぇって…、本人から、言質 取れれば満足か?」
我儘を紡ぐ子供を宥めるかのように問うオレに、ミケは、はっと小さく息を吐く。
「もういい。あんたに釘させたし。てか、タマの前で、他の女の話するとかデリカシー無さすぎだから」
そっちも、もういいでしょ? と、ミケは腰を上げ、膨れっ面で、しゃがんだままのオレを見下げる。
「ただの性処理の道具だとして、僕もタマも人だからっ。傷つく心、持ってんだからねっ」
イーッと歯を見せ威嚇した三毛猫は、ふぃっと顔を逸らし、足を踏み鳴らし帰っていった。
無駄な疲労感と共に、瞬の元へと戻る。
大きめのパーカーに、ラフなチノパンに身を包んだ瞬は、オレの姿に床から腰を上げる。
ゆるりと寄った瞬は、オレの顔色を窺いながら、口を開く。
「え、と。さっきは、ごめん……」
小さく囁かれた謝罪に、しょんぼりと悄気るその頭をくしゃりと混ぜてやる。
ここ数ヶ月で、瞬のために買い揃えた服は、どれもカジュアルな物だ。
フォーマルな物も考えたが、堅苦しいスタイルはしっくりこない気がして、柔らかな物ばかりを買い与えていた。
「こんな形 だからナメられるんだよな」
瞬の茶色く柔らかな髪を掻き上げ、額を露にした。
それでも、まだ庇護欲を唆る空気が抜けなかった。
無意識であろう怯えた瞳での上目遣いは、腹の底をぞわりとさせる。
「その顔やめれ。怖くてもビビっても、表に出すな。相手をツケ上がらせるだけだぞ」
ピンっと瞬の額を弾く。
弾かれた額を押さえた瞬の恨みがましい瞳が、オレを見やる。
「ま、言われたからって、出来るわけねぇよな」
さほど強く弾いたつもりはなかったが、赤らんでくる額を、瞬の指先を避け、詫びを込め擦 ってやる。
白い肌に映える赤。
「やっぱ、刺青 入れるか……」
ぼそりと放ったオレの言葉に、瞬の眉間にきゅっと皺が寄った。
「魔除けだ、魔除け」
自分の尻の辺りをぱんぱんっと叩くオレに、眉間の皺がゆるりと解かれた。
たとえ、身包みを剥がされたとしても、睨みを利かせる龍がいれば、相手も多少はたじろぐだろう。
「それで、迷惑がかからなくなるなら」
ふっと短く息を吐いた瞬。
気合いの入った瞳が、オレへと向けられた。
ともだちにシェアしよう!