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第31話 言葉ひとつ

 俺が礼鸞に拾われたのは、2年前。  その時も、ミケは俺を追い払おうと動いた。  昔から悪さをしていた俺は、()うの昔に親からは見放されていた。  21歳にもなって、アルバイトすら碌に続かず、その日暮らしの生活を送っていた。  そんな俺でも、慕ってくれるヤツはいた。  弟のように可愛がっていた男が、いかにもな儲け話に食いついてしまい多額の借金を背負わされた。  俺は、その借金をチャラにし、金を取り返すべく、怪しげな事務所に乗り込んだ。  そこに居たのが、礼鸞だった。  俺が乗り込んだ時、書類は散らばり、机や椅子もまともな配置にある物は少ない。  ナイフや銃も散見され、血塗れの男たちが、ごろごろと転がっていた。  事務所は既に、壊滅させられていた。 「お前も、ここの人間か?」  事務所の惨状に呆気に取られている俺へ、誰もが、たじろぐであろう鋭い視線が向けられる。  ここで礼鸞に噛みつくのは得策ではないと、第六感のような感覚が働く。 「違う」  のっそりと近づいてくる礼鸞に、背中を冷たい汗が流れた。 「金を、取り戻しに……」  ぼそりと放った言葉の真偽を暴こうとするように、礼鸞の瞳が俺を睨める。  疚しいコトのない俺は、その瞳を真っ直ぐに見詰め返した。  数秒の静寂の後、礼鸞の纏っていた刺々しい雰囲気が、ふわりと溶けた。 「お前も、ここ潰しに来たの? ……1人で?」  虚を突かれたような微塵の驚きを含んだ音で問うた礼鸞は、俺の背後に視線を飛ばす。 「そうだ」  乾いた口は流暢に話すコトを拒み、短い単語しか紡げなかった。 「オレが居て良かったな? それなりに強いんだろうけど、お前なら秒であの世行きだったぞ」  ははっと笑う礼鸞に、俺の緊張がじわりじわりと弛緩する。  少しばかり和らいだ緊張感に、礼鸞は言葉を繋ぐ。 「ここに金はねぇよ」  俺の前で仁王立ちしていた礼鸞は、片足を一歩引き、半身で事務所の中へと視線を投げた。 「マジかよ……」  確かに、開けた視界に映る雑然とした場所に、紙幣の(たぐ)いは、ひとつもない。  金を取り返すついでに、多めに頂戴しようと考えていたが、宛が外れた。 「金、困ってんならウチ来る?」  礼鸞の発言が何を示唆しているのか読み取れず、俺は訝しげな瞳を向けた。 「オレ、比留間」  その一言で、全てを察する。  コイツらが比留間のテリトリーに無断で立ち入り、逆鱗に触れてしまったのだろうコトも。  面倒を見てやるからオレの下で働けと、裏の世界に誘われたコトも。

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