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第32話 礼鸞に拾われたポチ

 鍛えれば使えそうだし、と首を傾げてくる礼鸞に、暫し逡巡する。  その日暮らしではあるが、家も生活もある。  だけど、仕事は続かないし、食ってくのがやっとの毎日だ。  身寄りもなく、荒んだ生活の中で野たれ死ぬくらいなら、礼鸞の配下に収まるのも悪くはないと結論づけた。  部屋なら腐るほどあるから、家に住めば良いという礼鸞の言葉に甘えた。  後日、借りていたアパートを解約し、礼鸞と落ち合った。  礼鸞に連れられ訪れたのは、いかにもな日本家屋だった。  礼鸞の部屋に通され、壁際に掛けられている服に目がいく。  高校の制服……?  制服を見やる俺に、礼鸞の視線が釣られ、そちらに向いた。 「俺の。ほとんど行ってねぇけど」  同じ歳くらいかと思っていたが。 「高校生……?」  ぽろっと零れた俺の言葉に、声が返ってくる。 「17。お前は?」  万年床であろう布団の上に胡座をかいた礼鸞が、俺を見やる。 「21」  礼鸞の瞳が、きょとんとした驚きに塗れた。 「同じくらいかと、思ってたわ」  ははっと笑った礼鸞に、軽い溜め息が口を衝く。  箔が足りない俺は、若く見られがちだった。 「盃だなんだってうるせぇから、お前はオレの飼い犬ってコトで。柴田……、ポチで良いだろ?」  首を傾げた礼鸞は、俺の返答など待たずに、話を続ける。 「オレ、まだ正式に後継いでないんだわ。せっかくオレが見つけたのに、オヤジに、ぶん取られて使い捨てにされんのも癪だし」  人を人と思ってねぇんだよ…、と不満げな顔を晒した礼鸞は、ガシガシと頭を掻いた。 「あ。ウチの下っ端に舐められんのは困るだろうから、公の場ではちゃんと柴田って呼んでやるよ」  くいっと口角を上げ、にたりとした笑顔を見せる礼鸞に〝任せます〞と声を返した。 「堅苦しぃな。まぁいいけど……」  配下に収まった以上、タメ口で話すのも違うだろうと、(かしこ)まる俺に、小さく笑う礼鸞の声が響く。  空いている部屋はあれど、片付いていないからと、その日は友人を部屋に泊める程度の乗りで、礼鸞の自室の片隅に布団が敷かれた。

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