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第34話 ミケとの対峙

 数日後。  幹部会に顔を出せとお達しを受けた礼鸞は、学生服より着慣れているであろうスーツに袖を通し、出掛けていった。  この頃は、まだ日本家屋が本宅で、オヤジの配下の人間もうろうろしていた。  礼鸞の(かたわ)らに控える俺に、周りはよそよそしげに接してくる。  あからさまな嫌がらせを受けているわけでもなく、部外者にあたる俺への対応など、こんなものなのだろうと、さほど気には止めていなかった。  ミケが裏から手を回し、俺を省こうとしていたのだと気づくのは、その直後だ。  柄の悪い人間たちに囲まれても、物怖じするでもなく、楽しげに話し込む3色に染められた頭が俺の目を引く。  (いか)つい面々が闊歩する屋敷の中、1人だけ混じった空気の違う人間は、俺の意識を惹いた。  視界に映っていた後頭部が、ふわりと回り、こちらを振り向いた。  とんとんっと軽い調子で俺に寄ったミケが口を開く。 「あんたが、礼鸞が拾ってきたっていう犬?」  あざと可愛く首を傾げながらも、その瞳は、俺の頭のてっぺんから足の先までを鋭く舐めていく。 「それがなに?」  見た目とは裏腹な可愛げのない空気を侍らせるミケに、腹の底がチリチリとした不快感を訴えた。  嫌悪を露に声を返した俺に、ふっと鼻から嘲るような息を零したミケは、瞳に侮蔑の色を乗せた。 「タマの方が全然可愛いじゃん」  この時は、ミケの言わんとしている内容を理解するコトは出来なかった。 「まさかとは思うけど、礼鸞のコト、狙ってたりしないよね?」  はっと息を飲んだミケは、恐ろしいものにでも会ったかのように、顔を歪め問うてくる。 「命を取ろうなんて、思ってねぇよ」  こんな相手の本拠地で、その命を狙うなど考え無しのするコトだ。  アホなコトを抜かすなと、呆れ混じりの声を返す俺。 「そっちじゃなくて。身体目当てかって話」 「は?」  音の外れた声が、俺の口から零れ落ちた。  ミケの言葉に、小遣い稼ぎに身体を売る男娼たちが集まる場所が、傍の倉庫街にあったコトを思い出した。  ミケの纏う空気からも、そちら側の人間なのだろうと推測する。 「礼鸞は、タマのものなんだよね。あんたがタマから礼鸞を奪うって言うなら、僕は黙ってないよ」  するりと細くなる瞳は、俺を威嚇する。

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