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第35話 オヤジの息子と幹部クラス
威嚇されたところで、怖くもなんともない。
それよりも、友人のために、動けるミケの優しさに心の端が疼いた。
タマが来ているのであれば、礼鸞は幹部会で居ないと伝えてやろうと厳つい面々の中へと視線を飛ばした。
「あんな柄の悪い人たちの中に、居るわけないでしょ」
はぁっとあからさまな溜め息を吐くミケ。
柄の悪い輩が集まるこの場所で、これだけ横柄な態度を取れるのは、ミケには、あいつらを簡単に黙らせるような、それなりの後ろ楯があるのだろう。
「奪うもなにも、俺の恋愛対象は女だ」
さらりと告げた俺に、一瞬、きょとんとした瞳を見せたミケは、肩透かしを食らったかのように、詰めていた息を吐く。
「そ。なら、いいや。……奪うつもりがないなら、見逃してあげる。でも、邪魔するって言うなら、容赦しないよ?」
得意気な笑みを見せるミケ。
舐められている感覚に、じりっとした苛立ちが腹底を炙った。
「見逃す……ね?」
ミケに、俺をどうこうできる力があるとは思えなかった。
「お前になにが出来るんだか」
呆れ混じりに紡いだ声に、ミケの顔がむすりと歪む。
「戸部 さんに絞めてもらうだけだよ」
僕の人脈をバカにするなとでも言うように、ふんっと言葉を放つ。
戸部は、この組織の幹部だ。
No.3くらいの地位はある。
だが。
オヤジの息子と幹部クラスの人間。
たぶん、正式に若頭を襲名していなくとも、礼鸞の方が格上だ。
「俺、若の犬だよ?」
未来の若頭直属の部下である俺と、幹部クラスに伝 のあるミケ、どっちが格上だろうな? と含みのある問い掛けを投げてやる。
うぐっと、言葉を詰まらせるミケの姿に、次期若頭が拾った犬をどうこうできるわけないと、既に断られたのであろうと推測できた。
それならばと、冷たくあしらうくらいなら良いでしょ? と、俺の居心地を悪くし、自ら出ていくように仕向けた。
が、宛が外れたといったところか。
痛いところを突かれたと、俺を負かす言葉を探すミケの瞳が盛大に游ぐ。
慌てる姿の可愛さに、思わず笑ってしまった。
「ははっ。ま、あいつらの邪魔をするつもりはねぇから、安心しろ」
ぽふんっと頭に乗せた手は、思いの外柔らかな髪に沈み、ふわりと良い匂いが漂った。
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