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第37話 僕でもいいでしょ
面倒臭さを隠しもせずに放った言葉に、タマは不思議なもの見るような視線を向けてくる。
スッキリすれば気分も晴れるでしょ? と、タマなりの罪滅ぼしのつもりだったのだろうが、俺の苛立ちは解消されるどころか、増す一方だった。
別に怒っている訳でも、謝罪を求めている訳でもない。
これは、タマの自己満足に過ぎないのだろうというコトもわかっていた。
俺は〝儲けたな〞くらいの感覚で享受しておけば良かったのだろう、けど。
「お前らを責めるつもりはねぇんだよ。貶されて威嚇されて、そりゃいい気分はしねぇよ。でも、それはお前のせいじゃねぇだろ。ミケだって、お前を守りたかっただけ…、友人を思ってしたコトなんだって、わかってる」
気分の良いものではなかったが、そこまで傷つけられた訳でもない。
こんな詫びの品を貰うほどのコトじゃない。
言い募っても動かない俺に、タマは顔を顰めた。
「あとで、鸞ちゃんにチクるとか無しだよ?」
疑いを含んだ瞳で、俺の顔色を窺うタマに、合点がいく。
これは〝詫び〞ではなく〝口止め〞の意味合いだったらしい、と。
「しねぇよ。ミケにも言ったけど、お前らの邪魔するつもりはないの」
不安げに俺を見上げる瞳に、その頭をぽんぽんしてやろうと伸ばした手が、すかっと空気を叩く。
「何してんの? 邪魔しないって言ったじゃんっ」
シャーっと威嚇音を放ちそうなミケが、タマの身体を引き寄せ、腕の中に囲い込む。
「なんもしてねぇよ……」
呆れ混じりの声を放つ俺に、ミケは腕の中に抱き込んだタマを背後へと押しやり、対峙してくる。
「ミケ?」
後ろから掛けられるタマの声を無視したミケは、がっと俺の手首を掴み、歩き出す。
呆気に取られるタマを置き去りに、俺はミケに引かれるまま歩を進めた。
コンテナが詰み上がり、入り組んだ場所を迷いなく連れ歩かれる。
三方をコンテナに囲われた袋小路へと辿り着いたミケが、俺の背中を突き当たりの壁に押しつけた。
「恋愛対象は女だとか言いながら、タマに手ぇ出さないでよっ」
苛立ちを隠すことなく、俺の前に仁王立ちするミケ。
まるでカツアゲにでも、あっている気分だ。
だが、ミケに強迫されたところで微塵の恐怖も焦燥もない。
俺ならば、口でも力でも、ミケを簡単に捩じ伏せられる。
すっとしゃがむミケに、俺はその頭を視線で追う。
「そんなに溜まってんなら、僕でもいいでしょ」
下から煽るように見上げてきたミケは、俺の両手をそれぞれ握り拘束し、股間へと顔を近づける。
鼻先で隠れているファスナーを探り当て、器用に口で、それを摺り下げた。
ジジッと鈍い音が、耳に響いた。
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