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第45話 喜ばしくない再会 < Side 瞬

 礼鸞の背中を彩っていた鮮やかな龍の姿。  拍動する龍の身体と、心の内まで見透かされそうな鋭い瞳が、俺を魅了した。  刺青を入れろという礼鸞に、相当な痛みを伴うのだろうと、一瞬、躊躇(ためら)った。  だが、また襲われて、礼鸞の手を(わずら)わせるくらいなら。  刺青を入れるコトにより、少しでもその手間が省かれるのなら。  俺は、入れるコトを承諾した。  足を登る龍は、礼鸞の指示だった。  彫り師とデザインを練り上げている間、俺が暇だろうと渡されたデザイン案の中に、鸞鳥が舞っていた。  礼鸞には、デザインが綺麗だったからと説明したが、理由はそれだけじゃなくて。  鸞鳥は、礼鸞を表す鳥だから。  腕に刻んだ鸞鳥が、俺を守ってくれそうな気がしたからだった。  臆病な俺に、その胸の内を顔に出すなと諭された。  相手にナメられないようにと、俺は感情を隠すコトが上手くなっていった。  礼鸞の家に住み着いて、2年と半年。  その日は、礼鸞について歩き、集金のために繁華街を闊歩していた。  香水と化粧の匂いに塗れたキャバクラ勤務であろう女性たちとすれ違う。  数歩、足を進めた俺の肩が、ぐっと後ろから掴まれた。  何事かと振り返る俺に、昔馴染みの声が鼓膜を揺らした。 「瞬?」  俺の瞳に映ったのは、母親だった。  驚きに動きを止める俺に、礼鸞の手が肩を掴む母親の手首を掴む。  礼鸞を見上げる驚きを露にした母親の瞳に、凄みを効かせた視線が応戦する。  一触即発の空気に、俺は我に返り言葉を紡いだ。 「…すいません。母、です」  母親の手を捻りあげようとしている礼鸞に、心配ないと首を振るった。  解放された手を擦りながら、母親が口を開く。 「あんた、生きてたんだ」  再会が嬉しいとか、やっと見つけたとか、そんな喜ばしい感情は微塵も含まれていなかった。  どちらかといえば、野垂れ死んでてくれれば良かったのにとでもいうような残念な思いが溢れ出ていた。 「生きてたよ」  家を出たきり帰っても来ず、連絡のひとつも寄越さない息子は、母親の中から居なかったものとして処理されていたようだ。  俺の生死ですら、母親には関心のないコトだったらしい。  ぼそりと返した俺の言葉にも、母親はなんの興味も示さず、話を先へと進めた。 「随分と良い服着てるわね?」  スーツの襟元を摘まみ、俺の衣服を値踏みする。  みすぼらしい服を着ていたとしたら、きっと母親は俺だとわかっても声を掛けるに至らなかったのだろう。  金の無心……。  今更、いいように使われて堪るか。

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