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第47話 日の当たる綺麗な世界で < Side 礼鸞

 派手な化粧と鼻につく香水の匂い。  一流とまではいかないものの、それなりの高級店のキャバクラ嬢だと思われる女が瞬の肩を掴んだ。  女の指の力に、瞬のスーツが歪む。  女に負けるほど貧弱ではないとわかっていたが、言い知れぬ空気を感じ、その手首を掴んだ。  ひりつく空気の中、口を開いた瞬からは思いも寄らない言葉が紡がれた。 「…すいません。母、です」  母親にしては、若すぎる気がした。  周りを囲む女性たちより見劣(みおと)ってはいたが、30代前半と言っても通じそうな見た目をしていた。  男にしては綺麗な顔立ちで、言葉では表せない色気を纏っている瞬。  この母親にしてこの子あり、そんな言葉が頭に浮かんだ。  スーツを纏った瞬に、オレたちのような野蛮な雰囲気はなく、力よりも理詰めで追い立てるタイプだと感じた。  怯えた瞳を見せるコトも、格段に減っていた。  無意識の怯えた瞳を見せなくなった瞬だが、反対に血の通わない冷たい表情も、堪らなく腹底を炙るものだった。  無自覚な色気が、消えるコトはなかった。  親子のはずなのに。  2人の間には、ギスギスとした嫌な空気が蔓延る。  声を荒らげた罵り合いはしないものの、ぴりぴりと肌を刺すような、じわじわと浸蝕する毒のような感覚が場を満たしていた。  比留間の若頭であるオレを紹介し、腕の刺青で、こちらの世界で生きているのだと母親に説明する瞬。 「俺が居なくなって、せいせいしたでしょ?」  綺麗な笑顔の裏には〝こちらには来るな〞という意図があるように思えた。  裏の世界で生きるようなオレたちに、無駄に関わるコトもないという瞬なりの〝優しさ〞だと感じた。  瞬は、好き好んでこの世界に足を踏み入れたわけじゃない。  たまたま、オレが助けただけで。  引き留めてしまっただけで。  瞬に似合うのは、もっと日の当たる綺麗な世界で。

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