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第48話 オレの痕跡

 オレの傍は、いつも殺伐とした空気が渦巻いている。  その空気を盾に、産まれた子供、礼鴉(らいあ)だけがオレの…比留間の血縁となった。  オレの嫁となれば、命を狙われかねない。  若頭の妻なのだから、当たり前だ。  だが、オレは女を守るつもりはなかった。  血の繋がった自分の子供は守れても、赤の他人である女にまで配慮する気などなかった。  オレに女への想いがないとわかっている親父は〝お前の安全のためだ〞と産まれた子供だけを比留間の家に引き取った。  礼鴉は親父たちの元で、すくすくと育っている。  瞬の母親にしても、オレの子を産んだ女にしても、こんな殺伐とした世界と無縁でいられるのなら、それがいい。  それは、瞬にも言えるコトだ。  瞬には綺麗な世界が似合うから、オレの傍から放ち、清白家に預けるという選択をした…、なんていうのは、自分に都合のいい後付けの理由だ。  瞬の色気に(そそ)られる本能と対峙するのは、なかなかの苦行だった。  いつか瞬の尊厳を踏みにじってしまいそうな、ぎりぎりの綱渡りのような生活に疲れたという本心が、最後の引き金を引いたに過ぎなかった。  清白家に預けるにあたり、刺青を消すコトも考えたが、瞬はその提案を拒絶した。  入れるより消す方が痛いと聞くから、嫌だと拒まれた。  瞬の身体には、いつまでもオレの痕跡が残り続けた。  オレの知り合いと称した人物は、スズシログループの当主、清白(すずしろ) 郭司(ひろし)だ。  郭司の頭には損得勘定しかなく、傲慢で、他人(ひと)など信用しない疑心塗れの男。  だからこそ、誰にも(おとしい)れられるコトなく、スズシロをトップ企業にまで押し上げたとも言える。  瞬が居なくなってから1年。  代わり映えのしない日々が過ぎていた。  比留間の力が必要ならば遠慮なく頼ってくれてかまわないと伝えていたオレに、瞬は細かに連絡を寄越していた。  なんの頼み事もない時もあれば、気になる人物の身辺調査を依頼してくる時もあった。

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