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第50話 オレの所に来るか? < Side タマ

 シュンは、スズシロに預けられた。  礼鸞の手から離れたのは、そりゃあ嬉しかった。  でも。離れた距離の分、礼鸞の心が持っていかれてしまった気がしていた。  そんな惜しい顔をするのなら、放さなければ良かったのに……。  なんで手放したのかと問うた僕の瞳には、平静を装いながらも、翳りが見える礼鸞の顔が映った。  本当は、傍に置きたくて。  本心は、寂しくて。  我を通すのなら、きっと礼鸞はシュンを手放したりしなかった。  手放したのは、(ひとえ)にシュンを想っての決断で。  礼鸞の心にあるシュンの居場所が、羨ましかった。  礼鸞の心に、僕の居場所はなくて。  ただ、この身体だけは利用価値があって。  僕の恋心は、礼鸞には不必要で邪魔な存在でしかなくて……。  わかっているのに離れがたくて、布団に転がる礼鸞の腕の中で、うとうとしていた。 「お前、帰んなくていいの?」  礼鸞の胸に預けている頭が、わしゃりと混ぜられる。  部屋に入る日差しが、すっかり西日になっていた。  僕の仕事は、高卒で始めた娼館のキャストで、夜がメインだ。  仕事に行くのなら、帰って準備を始めなくてはいけない時間だった。  だが、僕の頭に浮かぶのは〝休〞の文字が並んだ店のホワイトボードで。 「平気。今日も予約ないから……」  言葉にはせず、もう少しだけこのままでと、礼鸞の胸に擦り寄った。  最初の頃は、指名はうなぎ登りで、稼ぎは上場だった。  僕も今年で23歳だ。落ち目というには早いが、やはり新人の若いコには、敵わない。 「僕も、そろそろ潮時?」  思っても、この仕事を辞めたとして、次が浮かばなかった。  ぼそりと零れた僕の声に、髪を弄っていた礼鸞の手が止まった。 「オレの所に来るか?」  ばっと顔を上げた僕の瞳には、柔らかいというよりは狡さの滲む笑みが映る。 「お前の情報網は、ありがたいしな。比留間(うち)に来るなら、破格で雇ってやるぞ?」  娼館で働いているうちに出来上がった情報網。  情報は、下手な力や金より価値がある。  それを持っている僕が、…その情報網が、認められたに過ぎない。  認められて喜ぶべきだったが、僕はむすりと不機嫌顔を曝した。  礼鸞は、そんな僕の反応に眉を潜める。

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