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第55話 外される枷

 呆然とベッドの上に座り込んでいた。  重い音が部屋に響き、鍵が開けられたコトを知る。  扉へと向けた瞳には、昨日の男が映り込んだ。  スタスタと僕に寄ってきた男は、頭から爪先まで視線を走らせた。 「傷だらけっすね」  疲れたように息を吐いた男は、自分の着ていたジャケットを脱ぐ。  ―― ふわり  首輪だけがつけられた裸の僕の肩に、男のジャケットが掛けられた。  何が起きたのかわからない僕は、男を見上げる。  僕の視線に反応することなく、男は僕の首に手を伸ばした。  カチャっと軽い音が響き、僕の首に巻きついていた真っ赤な枷が緩んだ。 「抱き上げるよ?」  僕に抱き着くように腕を回した男の首に、手を引っ掛ける。  ふわっと、まるで軽いぬいぐるみでも持ち上げるかのように、男は僕を横抱きにした。  扉を潜った僕たちの視界には、対峙する2人の男。  館野と、…礼鸞だ。 「うちの大事な商品を、まぁ手荒に扱ってくれたこと……」  ちらりと僕にくべられた礼鸞の視線は、怒りの沈んだ冷酷なものだった。 「あん時は、ミケの口車に踊らされただけだろうと思って、見逃してやったけど……」  ポチの手により僕が礼鸞の前に引き摺り出された、…シュンが襲われたあの日。  僕が屋敷に着いた時には、既に館野たちの姿は影も形もなかった。 「オレたちの監視が弱まるのを虎視眈々と狙ってたってワケか」  ケツの穴の小さいヤツだな、と礼鸞は鼻で笑う。 「若。この子、先に連れて帰りますよ?」  僕を抱き上げている男が、2人のひりつく空気など気にも止めず、礼鸞へと言葉を投げた。 「ぉう。胃に穴開けてるヤツいるから、早く帰ってやれ」  館野から視線を外さずに、僕たちを追い払うかのように片手を振るう礼鸞に、男は何事もなかったかのように、その場を後にした。  窓に真っ黒なスモークが貼られたセダンの後部座席に乗せられた。  隣の座席には、下着やらシャツやらが綺麗に畳まれ置かれている。 「それ、着ちゃって。たぶんサイズ合ってるから」  言われるままに、ジャケットを男に返し、服を着た僕は、後部座席にちょこんと座る。  運転席へと回った男は、車を走らせ、比留間の離れになっている方の屋敷へと向かった。

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