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第56話 ミケを手に入れるには < Side ポチ
屋敷の敷地内に滑り込んできたセダンに駆け寄った。
後部座席の扉を開けた俺の瞳に、ミケの驚いた顔が映る。
「大丈夫か?」
掛けた声に瞳を瞬いたミケは、俺の勢いに押されるように、首を縦に振る。
ほっと息を吐き、手を差し出した。
おどおどと俺の手を握るミケの手首が、視界に入った。
「……っ!」
赤い筋が何本も浮かぶその手を、無意識に引き寄せていた。
大丈夫だと頷いたミケの手首が傷だらけなコトに、怒り心頭に発する。
靴を履いていない足が地面に落ち、擦れた痛みにミケの顔が歪んだ。
「…ぃっ」
「悪ぃっ」
俺は慌て、ミケを横抱きに抱え上げた。
「ゎっ……」
焦ったミケは、俺の腕の中から落ちないように、反射的にしがみつく。
「大丈夫じゃねぇだろっ」
苛立ちを隠さず言葉を紡ぎ、見やったミケの額にも変色した痣が見えた。
俺の視線が額の端で止まったコトに気づいたミケは、胸許に顔を埋め、それを隠した。
「……ったく」
すぐにバレるのに。
大丈夫だなんて嘘を吐いたところで、なになるというのだ。
…ぁあ。違う。
遅くなった俺が、悪いんだ。
ミケの名に釣り合うように。
ミケの隣に並んでも、恥ずかしくないように。
何があっても、ミケを守り抜けるように。
釣り合わないと言われたミケの価値と俺の格。
〝格〞などという目に見えないものは、示しようがなくて。
俺は、礼鸞の…比留間の若頭の腰巾着でしかなくて。
このままだと、いつまで経ってもミケを手許に置くコトなど叶わないと悟った。
タマが消えた娼館。
ミケも、じわりじわりと人気を失っていた。
食べていけない程では無いにしても、もう娼館に縛られる必要はないように思えた。
それならば。
「ミケを傍に置きたい、です」
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