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第60話 好きなものは好きでいい
知らなかっただけ、だ。
恋愛は、異性同士でするものだという固定観念があって、そういうものだと思っていて、俺もその概念の中の一部分にしか過ぎなくて。
自分がそこからはみ出し、同性を愛するなんて考えもしなかった。
他人がどんな恋愛をしようと、俺には関係ないと思っていたから、同性愛なんていう奇特な性癖もあるんだな、くらいにしか思っていなかった。
……人を想う気持ちに、珍しいも、不思議も存在しない。
「好きなもんは、好きでいいだろ」
ぼそりと放った俺の言葉に、ミケは白々しげに瞳を細めた。
「好きなものは、好きで良い。俺は、お前に惚れた。お前の性別なんて、どうでも良いんだよ。お前を傍に置いて、寄り添っていたいんだよ」
目の前にあるミケの手にそっと触れ、きゅっと握った。
「こんな傷だらけな僕が可哀想になっただけでしょ」
俺の渾身の告白は、同情や憐れみの類いだと片付けられた。
握っていた手は、鬱陶しそうに払われる。
「こんな薄汚れた物のどこに好かれる要素があるんだよ」
自分は、色んな男に弄 られた残り物で。
僕に、そんな価値はない。
愛される謂れなどない。
そんな卑屈なミケの心が、透けて見えた。
俺の好きなものを。
俺の大事なものを。
お前の捩じ曲がった理屈で、貶めてんじゃねぇよっ。
「汚れてなんてねぇよ」
そっぽを向いてしまったミケの顎を掴み、顔を上げさせた。
早くなる心臓の鼓動に伴い、俺の顔が赤くなっていく。
「俺の好きなもんは俺が決める。お前がなんと言おうと、俺はお前が恋しい。同情とか憐れみとかそういったもんじゃなくて、お前が好きなんだよっ」
言いたいコトだけを放ち、ミケの顔を見ていられずに、俯いた。
「この真ん中にあるもの、……俺にくれよ?」
ミケの左胸に触れ、ドキドキと音を立てる心臓に、願いを紡いだ。
「あーぁ」
失策だと言わんばかりの声を放つミケに、そろりと視線を上げた。
俺の瞳には、困ったように眉尻を下げたミケの顔が映る。
「やっぱやめたとか、無しだよ? あそこ辞めて、あんたの傍に居てあげるよ」
捨てんなよ、とミケは俺の肩口に顔を埋めた。
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