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第61話 ちっぽけな自尊心 < Side 礼鸞

 ポチが足繁くミケの元に通っていたのは、知っていた。  でも、そこまでの思い入れがあるとは思っていなかった。  好きな人を守りたいから、目の届く位置に置き、いつでも力になれるように離れない。  タマが、そろそろ潮時かと零した時、オレのところに来るかと誘ったのは、無意識に〝手放したくない〞という独占欲が働いたからだ。  それは、タマの有する情報網への執着ではなく、タマ自身に対するもので。  昔は、言い知れぬ焦燥感に駆られ、タマとのセックスの後には、必ず女を抱いていた。  世間が。世の中が。人の目が。  人と違うコトが、どこか怖かった。  〝普通〞という概念に拘り、怯えていた。 『男とか女とか関係なく、好きなヤツを守ってやりたいって思うのは、普通』  ポチの言葉は、目から鱗だった。  いったい何に怯え、いったい何を守っていたのか。  守るべきものは、自分のちっぽけな自尊心なんかじゃないのだと、気付かされた……。  情報屋へと転身したタマは、昔ほどオレの傍には居なかった。  オレが呼びつけない限り、屋敷にも近づかなくなっていた。  屋敷に呼び寄せたタマは、畳の上に胡座をかき、首を傾げる。 「今回は、誰を調べればいい?」  報酬は何にしようかなぁと、楽しげに浮かれているタマに、低い声で調査対象の名を告げる。 「長谷(はせ) 珠喜(たまき)」  紡がれた自分の名に、タマはぽかんとオレを見詰めた。 「そいつの言葉は、本心なのかを……まだ、オレのコトを好きなのかが、知りたい」  真摯な声で言葉を足したオレに、幾度となく瞳を瞬かせたタマは、言葉の意図を汲み取ろうと頭を働かせる。 「僕の忠誠心を試したいって……それだけ、ヤバい仕事って、コト?」  黙るオレに、タマの顔がみるみるうちに曇っていった。 「………はっ。こんなのは、狡いよな」  タマを見やっていた視線を外し、後頭部をガシガシと掻き毟る。  狡くせこい自分を追い払おうと、頭を大きく振るった。  保険を掛けていた。  結果が悪ければ、…タマの想いがもうないのなら、この告白は無かったコトにして、手遅れだったのだと諦めようとしていた。  告白などしていないと、フラれてなどいないと、中途半端な自尊心を守ろうとした。  プライドだけは高い小さい自分を鼻で笑い、あしらった。  外していた視線をタマへと戻し、じっと見詰める。 「珠喜。オレの所に来い」  誘うのではなく、命じた。  低く強く放たれたオレの言葉に、数秒の沈黙を挟んだタマは、はっと息を吐く。 「……また?」  タマの疑問符に、オレは眉を潜めた。 「僕は、傘下には入んないよ。比留間の力は認めてるけど、駒になるつもりはないよ」  ふいっと顔を背けたタマは、腰を上げる。 「それだけなら帰……」  離れていきそうなタマの手を、慌て掴んだ。  捕まれた手に、タマの瞳がオレを見下げる。 「……好きだ」

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