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第62話 逆転サヨナラホームラン
視線を交差させながら、告白の言葉を紡いだ。
酷く短い単語なのに、タマは言葉の意味が理解できないというように、動きを止めた。
理解してもらえないのなら、オレは言葉を尽くし、想いを伝える他はない。
「お前が好きだ。離したくない。傍に置きたい。比留間は、関係ない。オレが、…オレ自身の想いだ。お前の情報網だとか、そんなの関係ない。お前が、…珠喜自身が、欲しい」
言い募った言葉たちに、タマの瞳だけが息を吹き替えしたように、ぱちぱちと瞬 かれ、黒目が右へ左へと蠢く。
「好きだよ、珠喜」
駄目押しとばかりに、言葉を重ねた。
はぁあっと深い深い溜め息を吐いたタマは、そのまま、すとんとその場に座り込む。
「やっと?」
腹立たしげな音を孕んだ声を放ったタマに、きゅっと眉間に皺を寄せた。
「何年待ってたと思う? てか、シュンが現れたときには終わったと思ったわぁ」
あいつ見かけによらず可愛いんだもんなぁと、拗ねて見せるタマに、的確な返答を与えられていないオレは、口を開けなかった。
「潮時かなって話した時だって、プロポーズされたかと思いきや、比留間の傘下に入れとか言うしさぁ」
膨れっ面を曝したタマの喋りは止まらなかった。
「僕は比留間の仲間になりたいんじゃなくて、鸞ちゃんの恋人になりたかったのに、あんなこと言われたら……」
しおしおと沈んだ声色に、タマの肩が下がりしょんぼりとした言葉が続く。
「ぁあ、僕はもう望み薄かぁって。望みないのに、鸞ちゃんの傍にいるのもしんどいしさ。じんわりフェードアウトしようとしてたんだけど、……逆転サヨナラホームラン過ぎない?」
この展開は予想外すぎると、首を傾げたタマは、じっとりとオレを見やる。
これは、まだ、オレが好きだと自惚れて良いのだろうか…?
はっきりとしない現状に、オレは冷ややかなタマの視線を浴びながら、答えを待っていた。
どっちなのだと訴えるオレの視線に堪えられなくなったのか、タマが両手を上げる。
「はいはい。降参。好き。長谷 珠喜は、ずっと、比留間 礼鸞を好きですよ!」
半分キレながら紡がれた言葉に、張り詰めていた空気がふわりと弛緩する。
「あー、もぉっ。嬉しいのに喜べないっ。幸せなはずなのに、なんか腹立つっ」
上げていた両手がオレに向かって振り下ろされる。
オレは、その両手を捕まえ、顔を近づける。
「大好きだ、愛してる。ずっと傍に居ろ」
紡げば紡いだだけ、タマの顔は赤く染まった。
エロいコトをする時の余裕綽々な淫靡な色ではなく、本心を暴かれてしまった羞恥の色が、タマを染めていた。
「ははっ。エロいコトしてる時は平然としてたクセに、なに今更、照れてんだよ」
愛情を向けられるコトに慣れていないタマの動揺っぷりに、笑いが止まらなかった。
「マジでムカつくっ」
苛立ちと照れ臭さに真っ赤に染まった顔で、タマはオレの下唇に噛みついた。
それは、甘噛みなんて生易しいものではなく。
「ぃっ……」
鉄の味がじわりと広がるくらいには、強く噛みつかれていた。
この程度で、逃げるつもりはなく。
この程度で、手放すつもりはなく。
タマの気が済むまで、やらせてやる。
噛みつかれ滲んだ血が、タマの唇を彩った。
まるで血判でも、押下したかのように ――。
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